ジャニーズ性加害問題を報じたBBC記者「喜多川氏のやったことは不道徳で犯罪」日本の警察にも疑問
 ジャニーズ事務所前社長の故ジャニー喜多川氏の性加害問題で、3月に告発のドキュメンタリー番組「プレデター(邦題・J—POPの捕食者)」を放映した英BBC放送のモビーン・アザー記者(43)が本紙取材に応じた。
 日本で長年タブー視されてきた問題にどう切り込み、どう被害者の証言を引き出すことができたのか。日本メディアの一員としての反省も込めて話を聞いた。(ロンドン・加藤美喜)
◆「見えているのに隠れている物語」
 先月、ロンドンのBBC本社で待ち合わせたアザー記者は、番組当時の黒髪から鮮やかな銀髪に変身していた。両親はパキスタンからの移民で、本人は英国生まれ。これまで南アジアやメキシコ、米国、カナダなど世界各地で性的搾取や性的虐待のほか、タブーに挑戦する取材をしてきた。

アザー氏は、喜多川氏が死去した時の日本メディアの報じ方に「よく似たパターンがあった」と話す。日本のポップ音楽のゴッドファーザーで、当時の安倍晋三首相が弔電を送り、最も多くのコンサートをプロデュースしてギネスブックにも載ったこと。そして最後に不祥事への言及がほんの少しだけあった。それが「興味をそそった」という。
ジャニー喜多川氏の性加害問題について、「被害者の勇気を称賛したい」と話すBBCのアザー記者=19日、ロンドンのBBC本社で、加藤美喜撮影

ジャニー喜多川氏の性加害問題について、「被害者の勇気を称賛したい」と話すBBCのアザー記者=19日、ロンドンのBBC本社で、加藤美喜撮影
 さらに週刊文春の記事を巡る名誉毀損訴訟で、東京高裁が2003年、記事中の10件の申し立てのうち、喜多川氏の性加害を含む9件を事実と認定していたことも知った。「なのになぜ、日本の報道では語られないのか。多くのメディアに連絡を取ったが、壁が立ちはだかった。『見えているのに隠れている物語』だった。誰もやっていないなら、私たちがやるしかないと思った」と振り返る。
 被害証言を探すにあたり、取材チームはネット上のジャニーズ百科事典のようなサイトを参考に数百人にアプローチし、数十人から返事があったという。番組公開後、新たに返事をくれた人もいる。被害者の多くは「ある種の心的外傷後ストレス障害(PTSD)を抱えていた」とも感じた。取材にあたり、答えたくないことがあれば撮影中いつでも中断できること、撮影後に公開したくないと思った部分があっても構わないことなどを説明し、番組で発言した全ての人にカウンセリングを提供した。放映後も連絡を取り、反応を確認しているという。
◆日本の報道界にいないおかげで
 実際、番組内で「ハヤシさん(仮名)」が当時の被害を思いだし、「ごめんなさい」と言葉に詰まる場面は悲痛だが、アザー氏は「必要なだけ時間を取ってください」と見守る。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/260729