◆SNSの発信、影響力大きく
 靴小売店「ABC—MART」のパート女性(47)が1人で声を上げたのをきっかけにした約5000人の賃上げは、団体交渉で非正規労働者の賃金を上げられる可能性を示した。個人加盟の労働組合が多数集まって賃上げ圧力を強める「非正規春闘」が寄与した形だが、広がりや継続性といった課題も大きい。

 賃金に詳しい浜銀総研の遠藤裕基氏は、約5000人の賃上げが実現したことを「企業別の労組の枠を超えて非正規が連帯したのがポイントで、交渉力が強くなった。交流サイト(SNS)で発信した点も、賃上げへのネガティブなイメージを避けたい企業側との交渉に寄与したと考えられる」と分析する。

 企業の枠を超えて賃上げへの圧力を強めるのが春闘の本来の役割で、非正規にも一定の効果があったといえる。しかし成功例ばかりではなく、非正規春闘に参加した非正規が働く36社のうち、3分の2は賃上げがされていない。

 課題は賃上げの広がりと継続だ。働く人のうちパートら非正規が労組に加入する割合は、増えているが8.5%にとどまり、労使交渉の基盤が弱い。春闘のイメージを聞く連合総研の昨年調査(複数回答)では、「わからない」が61.7%と圧倒的だ。非正規は春闘の団交より最低賃金の引き上げに注目する人が多い。
 遠藤氏は「より広く非正規を組織化したり、労組の横のつながりを強化したりして交渉力を高めることが大切」と話している。