エッセイ > 編集(当時)コメント付:トランスジェンダーを排除しているわけではない 石上卯乃 | ウィメンズアクションネットワーク Women's Action Network
https://wan.or.jp/article/show/9075

記事掲載判断のお詫びと説明    2023年7月12日

                     伊田久美子 古久保さくら

2020年8月にWANサイトに掲載した石上卯乃名義「トランスジェンダーを排除しているわけではない」が多くの反トランス論を勢いづかせ、差別的な偏見を拡散させる結果となってしまったことについて、当時の編集担当として、トランス当事者のみなさまにお詫びします。その上で、この場を借りて今日までの経緯を説明します。

この記事の掲載により上記の結果を招いてしまったことは、私たちにとって痛恨の極みです。また、それでも石上記事にたいする批判記事やこの問題についての理解を深めることができる記事をWANサイトに寄稿してくださった当事者の方々には感謝してもしきれない思いです。

WANサイトの記事は、各コーナーの担当が記事アップの可否を決めるという、編集分業体制をとっています。これは、多くの記事が集まるサイトの運営をボランティアで進めるための方策ですが、以下のようなポリシーは共有されてきました。

1)開かれた公論の場の提供を目指している。
2)掲載記事にWANが賛同しているわけではなく、有用と思われる論点について、多様な見解を掲載する。(そもそもWANは一致した見解による運営はしていない。)
3)掲載は投稿規定に沿って採用する。

2020年8月に掲載した記事(筆名:石上卯乃)は7月に投稿され、編集担当(当時)の伊田・古久保が上記の判断により掲載しました。この記事を掲載し、開かれた公論の場でまっとうな批判記事を併せて掲載することにより、煽られた「女性の不安」の沈静化が可能であると考えたからです。差別的な記事は掲載しないが、差別的かどうかが争点になりうる可能性があれば掲載して、何が差別であるかを議論することは有意義であるという判断はありうる、と考えてこの記事を掲載しました。しかし現在は、この判断が、知識不足に加えて、以下の点での想定も甘く、誤りがあったと考えています。

  (1)批判や反論記事の登場までに数日のタイムラグがあり、その間に当該記事のみが批判記事なしに閲覧されてしまった。
  (2)SNSによる拡散の影響についての想定が不足しており、当該記事から批判記事へのナビゲーションが十分に機能しないことに無自覚なままプラットフォームを開いてしまった。
  (3)ネット空間での議論は理解の推進をむしろ妨げ、対立を煽る効果を発揮しかねないという問題に無自覚であった。

実際アクセス解析では当該記事のみを読んで直帰しSNSで拡散する行動が批判記事への遷移を量的に上回っており、編集意図とは真逆の結果となってしまいました。その結果、私たちが目指していた偏見の払拭と理解の推進以上に、偏見を拡大し、当事者を傷つける結果を招いてしまいました。特に当事者にとってはインターネットというツールが必要不可欠であり、そこでの偏見の拡散からの防衛が困難であるという事情についても無自覚でした。