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ヒノキ林大規模伐採、静岡県謝罪 所有者「間伐ではなく皆伐だ」
森林再生のために導入した「森林(もり)づくり県民税」を利用した静岡県の「森の力再生事業」で、県が所有者の意に反する伐採を行ったとして謝罪していることが、14日までの関係者への取材で分かった。県と実務を担った静岡市森林組合は「説明不足と確認不足があった」としている。
同市葵区の不動産賃貸業安池倫成さん(56)が父から受け継いだ市北部の同区口仙俣にあるヒノキ林。弟で林業家の勘司さん(52)と共同で所有している。父の時代に市内の中学生が植林体験をしたこともある。
倫成さんは昨年6月、間伐することで山林の水土保全機能などを維持したいとの思いから、県に整備者の森林組合と補助金の交付を申請。ところが今年1月の事業実績書では、間伐とは思えない大規模伐採が行われていたことが判明した。
「列状間伐」と呼ばれる斜面方向に沿って直線的に伐採する間伐は通常5メートル幅程度なのに対し、現場では15メートル幅で伐採されていた。面積にして計約2ヘクタール。倫成さんが複数の林業関係者に尋ねたところ「間伐とは言えない。(区画にある樹木を全て伐採する)皆伐だ」と口をそろえたという。
倫成さんの抗議に対し、県の農林水産担当部長は3月、「理解を十分得ておらず、整備方法が最適だったかなど事業の適正な執行に問題があった」とわびた。
県中部農林事務所は取材に、獣害がひどいなど樹木の経済的価値が低いと判断したことから15メートル幅での伐採を森林組合に提案したという。「合理性がある」としつつ、「普通は15メートル幅では伐採しないため、(所有者に)十分確認すべきだった」と反省した。森林組合も「説明が足りず、申し訳ない」と繰り返し、損害賠償などを検討するという。
倫成さんは「予算を使い切りたい県と、補助金がほしい森林組合とで利害が一致する。補助金は整備者の体質改善資金に思えた」と指摘。「当代としての責任を果たそうとしたのに問題を抱えた。現場の伐採木はどうすればいいのか、途方に暮れている」と話した。
<メモ>県は2006年度から森の力再生事業を開始した。所有者による整備が困難で荒廃した人工林や竹林、広葉樹林のうち、公益性や緊急性の高い森林の再生・整備が目的。森林づくり県民税を財源とする。県民税は個人から年額400円、法人から1000〜4万円を徴収している。課税期間は06年度から5年ごとに延長。県によると、年間の税収は10億円ほど。