ゲーム文化とセックスワークの“交差点” いま注目の「NPCストリーミング」って?
「アイスクリームはとてもおいしい、ミャムミャム」
ソーシャルメディア上の新しいトレンドとして「NPCストリーミング」が注目を集めている。
NPCは「ノン・プレイヤー・キャラクター」の略で、ゲーム上でプレイヤーが操作しないキャラクターを指す。このNPCの挙動を模倣しストリーミングをおこなうティックトッカーらについて、各紙が報じている。
NPCは事前にプログラムされたビデオゲーム上のキャラクターであるため、発するフレーズや動作は定型的かつ反復的なものが多い。要するに「NPCの模倣」とは、いわば「ロボットのように振る舞うこと」だと言える。
このNPCストリーミング界でいま特に人気を集めているのが、モントリオール在住の27歳の女性、ピンキードール(本名:フェダ・シノン)である。彼女は「アイスクリームはとてもおいしい」という奇妙なフレーズを機械的に繰り返すことで知られている。
彼女のストリーム中、ファンは彼女に対して投げ銭をする。その投げ銭はコメント内にアイコンとして表示され、たとえば、アイスクリームのコーンのアイコンが届くと、彼女は「アイスクリームとてもおいしい」と言い、また「GG」というアイコンが届くとロボットのように動きながら「ギャング・ギャング」と言い、炎のアイコンが届くと「ファイア・ファイア・ファイア」、ハートのアイコンが届くと「ラブユー・ラブユー・ラブユー」などと繰り返す。
つまり、このストリーミングにおいての視聴者からの投げ銭は、彼女(クリエイター)に対するコマンド(特定の機能の実行を指示する命令)として機能し、彼女はそのコマンドに応じて、前述のような定型フレーズを発したり、アイスクリームを舐めるように舌を出すなどの動作をおこなう。
米紙「ワシントン・ポスト」によれば、彼女をはじめとするNPCストリーマーらが提供するこういったコンテンツは、一部の人にとっては「フェティッシュなものである」と考えられているようだ。
クリエイターに対して「金銭的な贈り物(投げ銭)をすることで、クリエイターのあらゆる言葉やジェスチャーをコントロールできる」。このやりとりに「何か性的なものがある」と述べ、同紙はNPCストリーミングについて、コスプレなどの「ゲーム文化とセックスワークの交差点に位置している」と説明している。
インターネット文化に詳しいカナダの専門家もまた、NPCストリーミングについて「セックスワーカーらが何年もかけて磨いてきた一種のオンラインパフォーマンスを踏襲するもの」で、カムガールなどの延長線上にあると、英紙「ガーディアン」に語っている。
ただし、ストリーミング中に服を脱ぐなどのあからさまに性的なことをするのは稀で、視聴者との親密な会話が成立している訳でもない。そんなNPCストリーミングが提供するのは、まさに「クリエイターをコントロールできるという感覚」であり、視聴者はこのコントロールを通して親密さを感じているという。
「ストリーミングごとに2000〜3000ドルの収入」
とはいえ、すべての視聴者が性的な目的でストリーミングを視聴しているわけではなく、なかには、投げ銭というコマンドに従って人がロボットのように挙動する、絶妙な「不気味の谷」の世界をただ眺めて楽しんでいる人たちも少なくないようだ。
実際、何万人もの人々が定期的に前述のピンキードールのティックトック・ライブストリーミングを視聴しており、彼女は「ストリーミングごとに2000〜3000ドル(約28〜42万円)の収入を得ている」と、米紙「ニューヨーク・タイムズ」に語っている。オンリーファンズを含むすべてのソーシャルメディアアカウントを合計すると、その数字は1日あたり約7000ドル(約98万円)にもなるという。
もっとも、こういったNPCストリーマーのなかには「性的なコンテンツではない」と主張する者もいる。これに対し、イリノイ工科大学でゲームデザインと実験メディアを研究しているカーリー・コクレック教授は、「視聴者は、クリエイターが想定していなかった方法でオンラインコンテンツを観る可能性があるのです」と指摘している。
https://courrier.jp/cj/332972/