https://news.yahoo.co.jp/articles/3807dc86ad7eb507d1b5ef784f0a2b3b3811efc0
否定するのは作らない側の人──料理研究家リュウジがうま味調味料にこだわる理由
「僕はたぶん、世の中でいちばんたたかれている料理研究家ですよ」。そう自嘲気味に話すのは、YouTuberで料理研究家のリュウジさん(35)。レシピにうま味調味料を多用するスタイルには賛否あるが、いまや200万人近いチャンネル登録者数を誇る。ネットで人気を博して出したレシピ本は13冊を数え、累計90万部を超える「売れっ子」だ。高校を中退しアルバイトに明け暮れていた若者が、初めて人のために料理を作った経験、そしてうま味調味料にこだわる理由とは
すぐには料理を作らない
「道化を演じてて、たまに疲れることがありますよ」と笑う
カメラを据えたスタッフが何か小声でつぶやくと、それは突然始まった。
「はい! どーもー !リュウジです!」
ここは千葉県内のとあるマンションの一室。YouTuberで料理研究家のリュウジさん(35)の収録現場だ。チャンネル登録者数191万人、Twitterのフォロワー数184万人(2021年5月17日時点)。ネットで人気を博して出したレシピ本は13冊を数え、累計90万部を超える。
パン!と手をたたいて、レンズの前で手を広げる。
「今回は至高シリーズ! その中からミートソースの作り方をやります!」
料理を試食するスタッフの小川さん(左)。リュウジさんとは千葉の飲み屋で知り合ったという
「至高シリーズ」とは、リュウジさんのレパートリーの中でも、手の込んだ料理のシリーズだ。後述するが、彼のレシピは至高シリーズからキャベツにお湯をかけてうま味調味料を振っただけのものまで、かなり幅広い。
料理を作りますと言って、すぐ取りかかるわけではないのもリュウジさん流。業務用の大きなウイスキーボトルを取り出し、まずハイボールを作ってグイッとやる。この日は3本収録する予定で、1本目からこのペースだ。スタッフの小川徹也さん(34)が笑いながら困り顔を見せる。
「ほんと、3本目終わったら、けっこう本気で酔ってますからね」
公開された動画でも、「今回は3本撮りの3本目れす」と、ろれつの怪しいときがある。視聴者が作れるように細部まで考え込まれたレシピと、ちょいユルな収録風景と。アンバランスさがリュウジさんの魅力でもある。
1986年、千葉県生まれ。両親が幼いころに離婚したので、父親の顔もおぼろげだ。初めて人のために料理したのは、高校生のとき。仕事帰りで疲れ切っていた母親のためだった。何を作ったのか尋ねると、すぐに答えが返ってきた。
「鶏ムネ肉のソテー。スーパーで安かったからムネ肉にしました。お金のない家だったから」
作り方は誰かがネットに上げていたブログを参考にした。できた料理を母親が「美味しい」と言ってくれたのが嬉しかった。リュウジさんが何かを思いついたように上を向いた。
「いま自分がネットでレシピを公開しているのは、そのときにレシピを上げていてくれたことへの恩返しかもしれない」
料理で母親を喜ばせることには成功したが、リュウジさんはオンラインゲームにはまって高校を中退してしまう。18歳で家を出て、アルバイトを繰り返す生活を送る。月収9万円の日々の中で工夫して自炊する力を身につけた。
料理人を目指してイタリア料理店で働いたこともある。だがすぐ辞めてしまった。
「来る日も来る日も同じ料理の繰り返しで嫌になったんですよ。お客さんは同じグランドメニューしか頼まない。だから仕込みも調理も毎日同じ。僕はもっと違う料理が作りたくなったんです」
料理をすることは好きだが、料理人には向いていない。ではどうすればいいのか。悶々として就いた仕事が、老人ホームの事務職だった。料理とは関係のない仕事だが、そこで決定的な体験を得る。
老人ホームで「開眼」
YouTubeに動画は毎週6本上げている。それでも未公開レシピが800はあるという
上司の日向(ひなた)雅史さん(51)は、事務所で初めて見たリュウジさんを今でも覚えている。目の前をぼうっと通り過ぎて行く姿だった。
「完全に目が死んでるの。生気がない。こんな若者がいて大丈夫なんかって」
ほうっておけなくて、飲み会で話しかけた。
「なんか興味あることないのか」「料理するのが好きです」
「料理かぁ、うーん」と日向さんは腕組みして、名案を思いついた。施設で入所者を対象に飲み会を開こう。そこのおつまみをリュウジさんが作ればいい。さっそく週末にイベントを設定した。