「死人が出てもおかしくない」トラック運転手の異常な労働時間 "休息"時間に稼ぐ走行距離

 トラック運転手の残業規制強化に伴い、人手不足による物流の停滞が懸念される「2024年問題」。30年に九州でも荷物の39%が運べなくなるとの試算もあり、荷物が普通に届く日常は岐路に立たされている。

【図解】物流の2024年問題

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 精密機械を積んだ大型トラックは九州道から中国道に入り、目的地の愛知県へ向かう。走り始めてから4時間が迫るとサービスエリア(SA)に急いで駐車。エンジンを切って、ダッシュボードにある運行記録計(タコグラフ)からメモリーカードを抜き取り、数分でSAを飛び出した。

 九州の運送会社で働く池田次郎さん(40代、仮名)の一日だ。カードには走行時間や距離が記録される。カードを抜いている間は“休憩”したことになる。その間に走行距離を稼ぐ。

 運転手の残業上限は、24年4月から年960時間に制限され、1日の最大走行時間は原則9時間、走行中は4時間ごとに30分以上の休憩が求められる。北部九州と愛知県の距離は往復で約1600キロ。規制に従うと、現在の1泊2日の行程では往復できなくなる。

 池田さんの会社は来春を前に既に労働管理を厳しくしているが、違法行為に当たるタコグラフの不正は事実上黙認されているという。「配達件数をこなせなければ売り上げが減る。他の業者だってやってますよ」

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 「死人が出てもおかしくない」−。北部九州の中堅運送会社で安全教育の責任者だった大野信二さん(50代、仮名)は1年前、運転手約130人のタコグラフの生データに仰天した。日ごとの最高速度や労働時間が克明に記されていた。

 60代の運転手は連日時速140キロ超を記録。痛めた腰をかばいながら魚などを早朝から荷積みし、4トントラックで高速道路を飛ばして約100キロ離れた配達先へ。もう一つ午前中に業務をこなす「2階建て」だった。法定速度では間に合うはずもない。

 労働時間も異常だった。運転手の拘束時間は現在も原則月293時間が限度だが、400時間を超える者もざら。「違法にならないようにデータを修正するのが私の仕事」。当時、事務員が耳打ちしてくれた。

 職場では4年前に起きた死亡事故を機に、有志約10人が労働組合を結成。24年問題に向けた安全対策を会社に迫った。だが、「利益至上主義」(大野さん)の経営者は交渉の場に現れなかった。労組は1年足らずで解散。管理職ながら労組に加わった大野さんは左遷され、失意のまま会社を去った。この会社の担当者は取材に対し、「お断りします」と電話を切った。

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