「一発で荷物を“落とす”ことで頭がいっぱい」配達員を悩ます再配達 報酬変わらず夜も帰れず、ガソリン代自腹

インターネット通販などで宅配便需要が増加の一途をたどる中、配達員を悩ませているのが再配達だ。少しでも配送効率を高めるため、
配達員が宅配ボックスを不当にキープする手口も常態化。手間のかかる再配達が配達員の長時間労働を招く結果となっており、
2024年問題を機にさらに深刻化する懸念も出ている。

6月下旬、神奈川県内の30代の男性配達員は、奇妙な場面に遭遇した。マンションの届け先は不在。暗証番号を設定するダイヤル式の宅配ボックス10個も
全て「使用中」だった。諦めて不在票を書き始めると、後から来たネット通販大手の配達員が手際良くボックスの一つを解錠し、
空っぽの庫内に荷物を放り込んだ。「私物化するなよ」と男性が詰め寄ると、その配達員は無言で立ち去った。

東京都内のベテラン配達員によると、不正ができない新型も増えたとはいえ、宅配ボックスのキープは再配達の手間を省くために行われてきた。
早朝に来て確保したり、同業グループで長期にわたって占有したりするケースも散見されるという。
新型コロナウイルスの影響で、非対面で済む宅配ボックスへの配達を指定する人が増えたことも“争奪戦”に拍車をかける。

配達員にとって再配達は百害あって一利なしだ。千葉県内で配達する當真憲人さん(44)は1日の報酬は定額のため、
「2度、3度同じお客さんのところに行けば単価が下がるだけ。確実に一発で荷物を“落とす”ことで頭がいっぱい」。

再配達依頼があればルートが乱れ、「自腹」のガソリン代が余計にかさむ。特に夜間の再配達指定は長時間労働を誘発し、
「早朝から働いているので早く帰りたいが、どうしても夜遅くになってしまう」と嘆く。

配送効率化アプリを手がけるベンチャー企業「207」(東京)が昨年12月に個人配達員361人に実施した調査では、
週6日働く配達員は51・8%を占め、そのうち52・4%が1日12時間以上働いていた。

再配達を削減しようと政府は今年から4月をPR月間に設定。国土交通省によると、宅配大手3社が扱う荷物の再配達率は、
コロナ禍の外出自粛で20年4月に8・5%まで低下したが、その後は11%台で推移。消費者には、コンビニなどでの受け取りや、
急ぎではない荷物はゆとりをもった配送日時の指定を呼びかける。施策を進めれば再配達率を6%にできると見込む。

とはいえ、再配達率を下げれば配達員の負担減に直結するかは不透明だ。電子商取引(EC)の拡大で荷物の取扱量は年々増えており、
21年は約49・5億個と10年前の約1・5倍にまで膨らんでいる。

しかも配達員の多くはヤマト運輸や佐川急便など大手配送事業者の下請け事業者から、さらに業務委託されている個人事業主だ。
労働基準法の対象外で、それに準じた長時間労働の制限はあるが「周知は十分でない」(国交省貨物課)ため、業界では「働かせ放題になる」との懸念が渦巻く。

神奈川県の男性配達員(48)は「24年を機に大手は労働時間が適正化されるだろう。でも、しわ寄せが末端にくる。稼ぐ好機といえば好機だが…」
と複雑な心境を明かす。
https://news.yahoo.co.jp/articles/45e99164e96cbe9b21e09bde04929c5f125e6013