「2000時間働いてもワーキングプア」最低賃金1000円超えを達成しても尽きない課題
2023年7月29日 06時00分

 厚生労働省の中央最低賃金審議会は28日、2023年度の最低賃金(最賃)を全国平均で時給1002円に引き上げる目安額をまとめ、初めて1000円に達する見込みとなった。それでも水準は主要各国と比べて依然低く、フルタイムで働いても生活費を十分に稼げるとは言い難い。東京と地方との最賃額の格差や、中小零細企業の賃上げ原資の確保など「1000円以後」も課題は尽きない。

◆地域格差は深刻、最大で東京と219円差
 審議会の今年の議論では、水準の低さを訴える意見が労働者側の委員から出た。現状を「2000時間働いても年収200万円程度のワーキングプアの水準」と訴え、「最も低い県で990円を上回らないと単身でも生活できない」と指摘した。地域間格差の問題は深刻で、現在は最も低い青森や沖縄など10県は853円にとどまり、最も高い東京都との差は219円と大きい。
 労働政策研究・研修機構によると、英仏独の最賃は日本の2倍近く、豪州は2倍以上だ。さらなる引き上げが必要な状況だが、近年ほぼ毎年3%超の引き上げを続けてきたこともあって経営側は今年の議論で原資の乏しさを主張。「エネルギー価格や労務費(人件費)の価格転嫁は進んでいない」と訴え、中小零細企業への支援を求めている。

◆かつては家計の補助、今は大黒柱が最賃も
 日本では、最賃近くの時給で働く人はかつては主婦や学生らが多く、家計を補助する労働とみなされて低い賃金でも問題視されにくかった。現在は単身世帯や非正規が増え、家計を支える立場の人も増えている。春闘で賃上げ交渉する労働組合に未加入の人も多いため、春闘よりも最賃の引き上げ頼みの傾向は強い。
 政府は持続的な賃上げ策を議論してきた「新しい資本主義実現会議」で、1000円達成後の最賃の方針を検討する方針だ。低すぎる水準など、時代の変化に対応できなくなってきた制度の見直しは急務といえる。
 欧州は平均的な賃金に対して必要な最賃の水準を目標として示し、格差是正の役割を明確にしている。浜銀総研の遠藤裕基氏は「物価が上がって全体の賃金も上がった時、最賃も上がらないと低所得層は取り残されてしまう」と述べ、欧州のような方針に日本も見直す必要があると指摘する。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/266301