https://news.yahoo.co.jp/articles/0cb552746c7cb2df240e31cae631513b45b93b10

高校野球の「誤審騒動」で過剰なバッシング…現役審判は「このままでは成り手が減っていく」と大会運営に危機感

「疑惑の判定」直後の逆転劇
劇的な勝利を収め、マウンドに駆け寄る慶應の選手たち

 夏の甲子園を懸けた大一番で起きた“ある問題”が物議を醸している。7月26日に行われた神奈川大会決勝、横浜対慶応戦で誤審が疑われるプレーがあったのだ
横浜が2点をリードした9回表、ワンアウト一塁でそれは起こった。セカンド正面の打球を処理して二塁に送球し、ショートがそれを捕球してファーストに転送するいわゆる「4-6-3」のプレーで、一塁走者はフォースアウトかと思われたが、二塁塁審はショートの足がセカンドベースに触れていないと判断し、セーフと判定。直後に慶応の3番打者が逆転スリーランを放ち、試合はそのまま6対5で慶応が勝利し、甲子園出場を決めた。

 試合後に横浜を指揮する村田浩明監督は「ちょっと信じられない」と、この判定に対して納得がいかないとコメント。ネット上でもこの判定に対して多くの意見が巻き起こる大騒動となり、メジャーリーグやプロ野球で行っているビデオ判定を高校野球でも導入すべきという意見が続出した。

 高校野球における“誤審騒動”は珍しいことではなく、過去にも明らかに誤った判定をくだしたケースは少なくない。古い話では、1980年夏の埼玉大会決勝、熊谷商対川口工戦で、一塁走者の盗塁に対して遊撃手が完全に落球していたにもかかわらず、二塁塁審がアウトと判定し、これをきっかけにラフプレーや観客からの暴言が多発する大荒れの試合となっている。

 また、昨年の選抜高校野球では、敦賀気比対広陵戦でこんなケースがあった。4回裏、広陵の攻撃。フェアだったバントの打球に対して二塁塁審が誤ってファウルと判定。それを見た一塁走者が走塁をストップしてアウトとなってしまう事態が起こった。これに対しては、審判が協議の末に誤審と認め、判定を撤回するというシーンがあった。これらは明らかな誤審であり、1980年夏の埼玉大会決勝は、ビデオ判定を導入していれば、判定が覆ったことは間違いないだろう。
審判の判断が優先
 しかし、今回の横浜対慶応戦で起きたことは、たとえビデオ判定があったとしても、そのままセーフと判断される可能性が高いのではないだろうか。

 ネット上では、このプレーの映像がアップされている。筆者はそれらを検証したところ、明らかにセカンドベースに触れていると判断できるものはなかった。メジャーやプロ野球のビデオ判定でも、このような場合は審判の判断が優先されることになっており、結果は変わらなかったのではないか。

 高校野球を担当している現役の審判は、ネット上で過熱するアマチュア審判へのバッシングについて、以下のように苦言を呈する。

「アマチュア野球の審判は、プロの審判を目指してやろうというものではなく、大半の人は野球が好きだから何かの形でかかわりたいという気持ちでやっています。報酬は交通費程度で、必要な道具やシューズなどは自己負担。お金という意味では、アルバイトにもなりません。夏は炎天下の中で立ちっぱなしのため、体調を崩すケースも増えています。それに加えて、最近は誤審と思われるものがあれば、ネット上で叩かれる。高校野球は特に影響力も大きいので、高野連に『二度と審判をさせるな』という抗議の電話があると聞きます。ただでさえ、(審判が)人手不足になっているのに、こういうことが続けば、審判をやってみようと思う人も減りますよね。選手を守ることはもちろんですが、審判がいなければ試合や大会は成り立たないわけですから、何かしら対策は必要ではないでしょうか」

見直すべきは“善意”に頼った運営
 高校野球ほど話題にはならないが、大学野球の現場でも審判の人手不足は深刻になっており、公式戦にもかかわらず2人で試合を担当することや、1人の審判が1日に複数の試合をこなすケースも見られる。また、夏の高校野球では体調を崩して試合途中で審判が交代するということもあり、審判を守るための対策が必要となってくるだろう。

 ビデオ判定も含めた新たな施策を行うなどという話になっても、設備的な問題から全試合で導入が無理だから行うべきではないという意見が根強いが、果たして本当にそうだろうか。

 甲子園の本大会だけでなく、夏の地方大会も注目度はアマチュアスポーツとは思えないほど高く、そのコンテンツの価値を最大限に生かして、収益性を大幅に向上させることは可能なはずだ