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「インドの時代」到来 デリバティブ取引所、売買首位
新型コロナウイルス禍やウクライナ危機で金融・商品市場は激しく揺れ動くようになった。企業や投資家は価格の変動リスクを回避したり、高い収益機会を追い求めたりして世界のデリバティブ(金融派生商品)市場にマネーが流れ込む。主要取引所が売買高を増やす中で、勢力図には変化が見られる。
米先物取引業協会(FIA)の統計をもとにした集計で、世界の主要デリバティブ取引所で急速に存在感を増したのはインド勢だ。インド国立証券取引所(NSE)は先物とオプションの合計売買枚数で2022年まで4年連続の首位。株価関連の取引、とりわけオプションがけん引する格好で22年は381億枚を記録し、2位のブラジルの総合取引所B3(83億枚)以下を引き離した。
NSEの売買枚数は21年比で2倍強、コロナ前の19年比では6倍強と伸びは驚異的だ。ボンベイ証券取引所(BSE)の売買も増加傾向にある。変化を先取りする先物などのデリバティブ市場ではすでに「インドの時代」が到来。成長のけん引役が中国から交代した
人口構成で若年層が多いインドの成長期待は大きい。最近では高学歴、高所得の人口も増え、資産運用に動き出している。英フィナンシャル・タイムズ紙によれば、コロナ禍の都市封鎖の中で若い個人投資家を中心に売買意欲が高まった。
野村アセットマネジメントの江口朋宏エコノミストは「成長力が鈍り、地政学リスクも増す中国からインドを中心にした他のアジア地域にマネーが移動しつつある」と指摘する。NSEは通貨や金利、商品(コモディティー)分野でも新たなデリバティブを扱い、市場参加者を増やす計画だ。
鄭州商品交易所など中国の取引所も19年、20年と比べると売買高は増えている。それでも銅先物や、鉄筋先物など独自の上場商品で売買を急増させたかつての勢いはない。個人投資家を中心にした鉄鋼先物などの売買過熱に対し、規制に動くようになった経緯もある。
新興国ではトルコのボルサ・イスタンブールが21年比で3割も売買高を増やし、アルゼンチンのマトバ・ロフェックス(Matba Rofex)も世界の20位圏に顔を出した。激しいインフレに見舞われるトルコやアルゼンチンなどの取引所が売買高を増やす状況は不思議にみえる。だが、この高インフレが資産防衛のための運用ニーズにつながっている。
第一生命経済研究所の西浜徹主席エコノミストは「アルゼンチンやトルコではインフレ鎮静化のめどが立たず、通貨安の動きが続くなかで資金逃避先としてデリバティブ取引に向かわざるを得ない」と話す。
現金のまま保有すればインフレの中で価値は著しく目減りする。マトバ・ロフェックスが今年、暗号資産(仮想通貨)であるビットコイン指数先物の取引開始に動いた背景でもある。
日本取引所グループ(JPX)は21年より18%増の18位。JPXは今年5月、少額で取引が可能な日経225マイクロ先物などを上場し、さらなる売買拡大をめざす。
シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)グループをはじめ米国勢も総じて好調だ。野村総合研究所の木内登英エグゼクティブエコノミストは「米国の金融政策の不確実性もあり、今年に入っても取引は増加傾向にある」と話す。
米国勢の取引を分野別に見ると、けん引役は株価指数や金利、通貨といった金融分野であり、エネルギーや金属、穀物などの商品は売買が縮小傾向にある。これもデリバティブ市場における最近の変化だ。
商品市場ではマネーの流入規模を示す売買建玉(ポジション)も20年ごろから大幅に減った。米商品先物取引委員会(CFTC)の公表データによれば、CMEの主力上場商品である米原油先物の総建玉(売買合計、商業部門を含む)は20年初めから直近までに2割強も減少した。昨年3月、価格が急騰する中でニッケル取引を一時停止したロンドン金属取引所(LME)の売買も不振だ。
マーケット・リスク・アドバイザリーの新村直弘共同代表は「短期的には世界景気の減速や流動性の低下が商品分野にはマイナスに働く。インドの経済成長もまずスタートアップ企業などへの投資が先行し、商品需要に構造的に波及するのは25年前後になるだろう」という。デリバティブ市場では相場の動きとは異なる変化が進む。