【ワシントン=向井ゆう子】日本へのサイバー攻撃が明らかになった中国のハッカーを巡っては、米国の重要インフラのネットワークにマルウェア(悪意あるプログラム)を広範囲に仕掛けた可能性も浮上している。台湾有事の際、米軍の作戦を混乱させることを狙った中国の工作活動であるとの見方が出ており、米国は警戒を強めている。
「広範囲にマルウェア」
「米国は、中国のマルウェアを追っている」
米紙ニューヨーク・タイムズは7月29日、米国の重要インフラのネットワークの深部に中国のハッカーがマルウェアを仕掛けた可能性があり、米政府が除去作業に乗り出すと報じた。
きっかけは、米IT大手マイクロソフトが5月24日に公表した報告書だ。中国を拠点とするハッカー集団「ボルト・タイフーン」が2021年半ばから米領グアムや米国内のインフラのシステムに侵入。マルウェアを通じ、情報収集を行っていたと明らかにした。
米英豪など5か国の枠組み「ファイブ・アイズ」の情報当局も共同勧告を発表した。このハッカー集団が「中国の国家的支援を受ける」と断定し、「世界中で同様のことが行われる可能性がある」と警告した。
報道によると、米国家安全保障会議(NSC)、国防総省、情報機関などがこうした指摘を受けて分析を行った。その結果、米国民の生活基盤や米軍施設を支える水道、通信などの基幹インフラにマルウェアが潜んでいる可能性が判明した。
マルウェアは、コンピューターウイルスなどシステムに不具合をもたらすプログラムやソフトウェアを指す。メールの添付ファイルや、不正サイトへのアクセスで感染する。感染すれば、情報が抜きとられるだけでなく、システムを乗っ取られるなどの危険がある。
米政府内からは「台湾有事に向けた布石ではないか」との見方が出ている。台湾有事の際、グアムは米軍の重要拠点になる。中国が事前に仕掛けたマルウェアを作動させ、基地への電力供給や通信を妨害・遮断すれば、米軍の展開に遅れを生じさせることができる。同様のマルウェアが日本のインフラに仕掛けられて発動すれば、在日米軍の動きが封じられる恐れもある。
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