https://www.sankei.com/article/20230818-54NXNQV3KRJGXNAFOZHAOD5YUE/

急がば守れ?制限速度で走ると青信号が続く「都市伝説」を検証した

制限速度をきちんと守って走ると、実は信号には引っかからない−。インターネット上では「都市伝説」のごとく語られるこの仮説、タクシーやトラックの運転手は経験則として知っているかもしれない。実際のところどうなのか。具体的な情報はほとんど出回っていない。そこで大阪府内の幹線道路を走り、検証してみることにした。

検証は郊外と都市部の2区間で、交通量が少なく、周囲の車の影響を比較的受けにくい深夜に行った。

8月上旬、平日の午後11時半過ぎ。大阪郊外の主要幹線道路の一つ、大阪外環状線。大阪府東大阪市の鷹殿(たかどの)町交差点から同府八尾市の都塚交差点までの約7キロを制限速度の時速50キロで走行した。

深夜の国道とあって、制限速度で走っていると速度超過の後続車に次々と追い抜かれる。しかし、その先の信号に差しかかると、先行車は赤信号で停止を余儀なくされていた。

減速しながら交差点に近づくと、計ったように赤信号が青に。そのタイミングのよさはちょっとした快感を覚えるほど。

結局、26カ所あった信号のうち、赤信号で停止したのはわずか5カ所。信号待ちの時間は計約1分50秒だった。

続いて都市部。大阪市内を走る国道1号では午前1時過ぎから検証を開始した。蒲生(がもう)4丁目(大阪市城東区)−城北橋南(同市旭区)間の約2キロの区間を制限速度の60キロで走行すると、13カ所ある信号に1度も引っかからずに通過できた。

その後も複数回走行したが、おおむね「都市伝説」通りの結果に。そのからくり≠信号制御を所管する大阪府警に聞いた。

府警交通規制課によると、府内の幹線道路では午後11時ごろから翌午前5時ごろにかけて、信号機を調整する「速度抑制オフセット制御」を導入している。


対象は国道などの45路線、76区間の計700キロ。制限速度で青信号を通過した車がちょうど次の信号に差しかかるタイミングで赤から青に切り替わる仕組みになっている。電車のダイヤのような図表を用いた計算により、絶妙な調整を実現しているのだ。

府警がこの仕組みを導入したのは、約30年前の平成6年1月にさかのぼる。当時、年間の交通事故死者数は現在の3倍以上。渋滞が少なく、ドライバーがスピードを出しやすい夜間の発生が目立ったため、速度抑制につなげる狙いだった。

対策が功を奏したのか、夜間の死亡事故は減少。午後10時〜翌午前5時台の死者数は平成5年には全体の47%を占める226人だったが、7年には189人(40%)、令和4年は38人(27%)まで減少した。


大阪ではせっかちな人特有の乱暴な運転、いわゆる「いらち運転」が目立つ。だが道を急いだところで、オフセット制御の道路では目的地までの移動時間は制限速度の車と変わらないことになる。交通規制課の大北良弘調査官は「制限速度を守った方が快適に走れることを知ってほしい」と話す。

同様の信号制御の仕組みは全国の主要幹線道路でも導入されているというが、ほとんど知られていないのが現状だ。ドライバーがオフセット制御を理解すれば、事故抑止にもつながる。大阪市立大名誉教授の日野泰雄氏(交通工学)は「日本自動車連盟(JAF)などと連携して広く周知し、啓発につなげることが重要だ」と指摘した。