農地潤すダム、枯渇寸前で取水停止 米の品質に影響も 福島
白河、須賀川市など福島県南5市町村の農地を潤す「羽鳥ダム」(天栄村)が連日の暑さで枯渇寸前となったため、水利を管理する矢吹原土地改良区(矢吹町)は18日、ダムからの取水を完全停止した。稲刈りを秋に控えて米の収穫量や品質の低下が懸念されている。【根本太一】
羽鳥ダムは鶴沼川をせき止めて造られ、1956年に完成した。周囲16キロ、最大水深31・2メートル、満水時の総貯水量は約2700万立方メートル。壮大な景観を誇り、「ダム湖百選」に選ばれている。
ダムの恩恵を受けるのは、組合員1850人の農地1350ヘクタール。例年なら8月下旬まで農業用水が供給されていたが、貯水率は18日現在で16%未満にまで落ち込み、取水口が土砂などで詰まって機能不全に陥る危険性があると判断した。
土地改良区の担当者は「8月半ばの供給停止は初めて。渇水防止のため計画的に取水量を減らす努力はしたが、異常な日照りには勝てなかった」と悔やむ。管内の一部の水田では既に底のひび割れが散見されるという。
一方、JA夢みなみ(須賀川市)の営農部(白河市)の担当者も「米は水稲と言われるくらいで、この時期の水不足は深刻。稲の実が熟しないままに稲刈りを迎えてしまう」と懸念を隠さない。
鏡石・村越さん「10日待ってほしかった」 高温とダブルパンチ
「天気には勝てないから」。羽鳥ダムから水田に給水を受ける鏡石町成田集落の農業、村越武雄さん(50)はそう自分に言い聞かせる一方で、「せめて、あと10日は持ってほしかった」と未練さを打ち明けた。
高温の日が続くと、稲は身を守ろうとして皮(もみ)を固くし、実(米)の成長に影響するという。そこに、羽鳥ダムからの水供給停止が追い打ちした。
「粒が小さいと等級が落ち、最悪の場合は『くず米』扱いにされて農協への出荷価格が半額以下になってしまう」。熱中症の危険と隣り合わせの苦労が報われなくなるのだ。
村越さんは、水田300アールを所有する。うち、ダムの恩恵を受けるのは丘陵の斜面に築いた70アールで、阿武隈川から引水して耕作している残り230アールは今回の不作の懸念を免れた。
しかし、阿武隈川は2019年10月の台風19号(東日本台風)で氾濫。堤防から600メートル離れた村越さん宅も床上浸水し、稲刈り直後の約5・4トンも無駄になった過去がある。
国は治水対策として、被災地域一帯をコンクリート壁で囲む「遊水地」を28年度を目標に整備する計画で、この230アールも建設予定地内にある。完成後も敷地内で営農継続できるのか、国は今も方針を示していない。
村越さんは、営農継続が認められなければ、人口減少や米の需要不足も考慮して耕作を遊水地外の70アールに絞る意思を固めている。果たしてその時、水源を羽鳥ダムだけに頼って水田を維持していけるのか――。
「台風が来るのは勘弁してほしいが、ちょっとだけ大ぶりの雨が降ってくれないか」。セミが大合唱を続ける里山で、村越さんは空を見上げた。
https://mainichi.jp/articles/20230820/k00/00m/040/043000c