昆虫の王様」と呼ばれるカブトムシを昆虫食に活用する研究に、九州大のグループが取り組んでいる。サナギを食用や家畜飼料用として大量養殖する実証実験を、9月に福岡県嘉麻市の過疎地で始める。廃校舎で育て、地域の雇用や産業の創出も目指す。(大森祐輔)
■タイやラオスでは食材
取り組むのは九大農学研究院の紙谷聡志准教授らの研究グループ。放置竹林の問題を解決しようと、嘉麻市と連携して竹材の使い道を模索する中で、発酵させた竹チップがカブトムシの餌になることを見つけたのが、食用研究のきっかけだ。
カブトムシはタイやラオスでは古くから食材とされ、揚げるなどして食べられている。特にサナギは土の臭いや雑味がほとんどなく、ほのかにエビのような香りがして食べやすい。乾燥させて粉状にすると、加工食品にも向くという。
昆虫食には一般に食用コオロギが知られる。ただ、育てるのに室温や明るさを保つ必要から、光熱費などのコストがかかり、昆虫食の中では「高級食材」と位置づけられている。
紙谷准教授らがカブトムシを詳しく調べると、空調や照明のない部屋でも問題なく育つことが分かった。行動もおとなしくて手がかからず、「低コストで大量養殖できるのでは」とのアイデアが浮かんだ。
■過疎地で雇用生み出す
実験の場に選んだのは、2014年に閉校した嘉麻市の旧千手小校舎。竹チップは市が放置竹林から伐採して作るもので、無償で提供を受ける。今年度に500匹から始めて、来年度に5000匹、2年後には5万匹に増やすことを目指す。
カブトムシの世話役は地元住民が担い、過疎地域の雇用創出につなげる狙いだ。
課題は卵からサナギになるのが年に1回と成長が遅いことだ。東南アジア原産のカブトムシの一種「サイカブト」なら、年に3回は卵からサナギになる周期を繰り返すため、生産量が大きく伸びる。暖かな環境が必要なため、グループは九州南部での養殖実験も検討している。
■「一石三鳥」
実験と並行して、まずは安価な家畜飼料としての実用化と販路開拓を目指す。飼料に広く用いられる魚粉よりもコストを抑えられる可能性があり、飼料価格が高騰する中、カブトムシの価格競争力で勝負をかける考えだ。
成分の詳しい分析や健康への効能も調べて、将来的には人の食用として積極的に選ばれる存在に育て、医薬品としての可能性も模索する。
嘉麻市は人口減や少子高齢化が重い課題となっている。児童数の減少で廃校した元校舎も使い道のないままだった。市の担当者は「カブトムシが事業化できれば、元校舎が地域住民の働く場に生まれ変わる」と期待を寄せる。
紙谷准教授は「カブトムシが食料不足と放置竹林と過疎地活性化を一気に解決する『一石三鳥』の存在になるかも。食品としての安全性に不安を抱かれないよう、しっかり精査していく」としている。
◆昆虫食=世界で1900種を超える昆虫が食用にされ、日本でもイナゴなどが伝統食として根付いている。日本能率協会総合研究所の調査では、昆虫食の世界市場規模は2019年度の70億円から、25年度に1000億円に拡大すると予測している。
■コオロギの新商品続々
昆虫食の代表格であるコオロギは栄養価が高く、食べやすい。さらに付加価値を高めようと、各地で商品開発の取り組みが進む。
宮崎市の建築会社「宮防」は、事業の多角化の一環として、地元特産のちりめんじゃこを餌にコオロギを養殖。爬虫(はちゅう)類などのペットの餌として出荷している。カルシウムを多く含み、ペットの病気予防につながると好評で、年内には人の食用にコオロギ粉末の製造を計画している。
昆虫食のメニューが話題の東京・日本橋馬喰町のレストラン「ANTCICADA(アントシカダ)」では、コオロギを材料に用いたラーメン(税込み1100円)が1日100杯以上売れる日もある。https://news.nifty.com/article/domestic/society/12213-2516500/