2019年、コンゴ民主共和国でアントノフ72輸送機が墜落したとき、乗っていたエフゲニー・プリゴジンが死亡したと報じられた。
しかし3日後、ワグネルのトップは姿を現した。プリゴジン死亡と伝えられたニュースは間違っていたのである。
だから今回も、プリゴジン死亡の報を疑う、あるいは断定するのをためらう空気が流れている。
「初期の報道については、かなりの注意が必要です」と語るのは、英シンクタンクのチャタムハウスでロシアを専門とするキール・ジャイルズだ。
「搭乗者名簿にエフゲニー・プリゴジンという名前があったと発表されています。でもプリゴジンは自分の移動ルートを隠すために、複数の人物にエフゲニー・プリゴジンと名乗らせていることも知られています」
ジャイルズはさらにこう続ける。
「そういうわけで、(墜落機に乗っていたのが)本物のプリゴジンであると断定されるまでは、彼がほどなくアフリカからの動画で再び姿を現しても驚かないようにしたほうがいいですね」
プリゴジンが6月に軍事クーデター未遂を起こした後、ロシアの捜査当局は彼の自宅で、替え玉用とみられるパスポートを何冊も発見したとされる。また、プリゴジンが濃いあごひげを生やしていたり、外国の軍服を着ていたりなど、さまざまな変装をしている写真も見つかった。
空港で「第2の飛行機」に乗り換えた?
プリゴジン自身がカオスを呼ぶ人物であり、ソーシャルメディア荒らしで知られる男であるため、陰謀説の材料には事欠かない。
ロシアのメディア「フォンタンカ」は24日、プリゴジンの遺体は墜落とその後の火災によって、通常の方法では身元が確認できないほど損傷している可能性があると伝えた。
これを受けて、ある著名なロシアの政治学者はソーシャルメディアにこう書き込んだ。
「予備のパスポートを一つ持ち出して永遠に姿を消すには、焼け焦げた飛行機は良い方法だ。カラスは骨を集めないし、遺骨は灰になり、足跡は途絶えた」
ロシアのジャーナリストで治安の専門家でもあるアンドレイ・ソルダトフは言う。
「国民の50%が、プリゴジンはただ逃げただけで、飛行機墜落が彼の逃げ道だったと確信し続けるのは、避けられないだろう。この種の陰謀論は、とくに彼の経歴を考えると、これからずっと人気を博すでしょう」
ワグネルに近い「テレグラム」のチャンネルは、プリゴジンの小型機が墜落してすぐに、ロシア軍が発射した地対空ミサイルによって撃墜されたと断言した。
その一方、親プーチンの保守系メディア「Tsargrad」は、機内に仕掛けられた装置によって爆破された可能性が高いと報じ、墜落の背後にいる「犯人像」の幅を広げた。
独立系ラジオ局「モスクワのこだま」の元編集長アレクセイ・ヴェネディクトフによれば、プリゴジンが空港に入り、駐機場へと向かう姿の目撃情報は簡単に見つかるだろうが、同日に離陸した第2の飛行機に乗り換えた可能性もあるという。
どうやらプリゴジンの死を最も確信しているのは、彼の盟友たちとワグネルに近いメディアの一部だけのようである。
https://courrier.jp/cj/336364/