ゲーム市場がまだ小さかったころ,襟川氏は通産省(当時)の役人と会ったときに「市場規模が1兆円を超えないと産業とは言えない」と言われ,悔しい思いをしたという。それが今や世界で約23兆円となっているのだから,襟川氏にとっては感慨深いようだ。

ここからはコーエーテクモの紹介に。グループの基本理念は,襟川氏が経験したことが基になっているという。コーエーテクモの精神とされる「創造と貢献」は,「川中島の合戦」のプレイヤーからの声を聞いて仕事の醍醐味を知った襟川氏の原点だ。

 経営基本方針にも,開発者と経営者の両方をこなしてきた襟川氏の考え方が反映されている。よいコンテンツを作ることで収益が上がって会社が成長し,社員の待遇もよくなって新分野への挑戦もしやすくなり,それがまたよいコンテンツにつながっていく……という繰り返しでここまでやってきたという。

社員教育に力を入れていることも,コーエーテクモの特徴。新入社員研修はもちろん,技術や語学,プロデューサーなどの職種別研修といったさまざまなものがある。その理由は,基本的に社員を新卒で採用し,育成を続けてパートリーダー,ディレクター,プロデューサー,やがては役員と成長してほしいからとのことだ。

 社員福祉も同様で,8年連続のベースアップを行っている。特に2022年には月額基本給を23%アップさせた。また,今年の新卒社員の初任給は30万5000円になっている。襟川氏は「ゲーム業界のトップクラスの待遇を常に目指しています」と話した。

 そんなコーエーテクモゲームスが目指すのは,世界No.1のデジタルエンタテインメントカンパニーだ。世界一は光栄設立当初からの目標だったが,その方法が分かっていたわけでもなく,若かった襟川氏は「頑張ろう!」「気合いだ!」と社員に呼びかけるぐらいしかできなかったと振り返った。

 だがその後,コーエーテクモグループが年々成長を続けていることは,多くの人が知る通り。襟川氏は,営業利益ベースでは全世界の上場ゲーム企業中17位にまで上がってきていることをアピールした。ここから世界一へ上り詰めるのは簡単なことではないが,まったくの夢物語で片付けてしまえる位置でもない。

なぜ営業利益ベースでの比較なのかが気になる人もいるかもしれないが,襟川氏は,ゲーム会社の営業利益とは,お客から「もっといいゲームを作れ」という期待感の表れだからとした。その期待に応えるため,営業利益は次にいいゲームを作るための投資に充てるという。

 世界一を目指すコーエーテクモの近年の業績も示された。それが下のグラフだが,見事に右肩上がりで,2023年3月期は営業利益と売上高が過去最高を記録している。
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中期的な目標としては,2024年度に売上高1000億円,営業利益400億円,経常利益500億円を目指すとのこと。また,2022年度から2024年度の3年間で,パッケージソフトで500万本タイトル,毎期の200万本タイトル,スマホ向けでは月商20億円タイトルの創出を目指すとしている。

その実現のために,襟川氏が必要だと考えているのが,グローバルIPの創造と展開だ。グローバルIPは,プラットフォーム,ジャンル,コラボレーション,ライセンス,タイアップといった多方面に展開できるため,今後の大きなカギになるという。


 ゲームIPのゲーム以外での展開というと,映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」が記憶に新しいが,襟川氏は以前,任天堂の宮本 茂氏が「うちはタレント事務所ですから」と話すのを聞いたことがあるという。冗談めいても聞こえるが,襟川氏は「それくらいIPを大事にしている」と受け取ったとのこと。


 グローバルIPを創造するには,最初から世界を見据えた作り方をすべきだと襟川氏は考えている。
 「仁王」シリーズは出荷本数が累計700万本を突破したが,その90パーセントは海外とのこと。任天堂のIPとコラボした「ファイアーエムブレム無双 風花雪月」「ゼルダ無双 厄災の黙示録」はそれぞれ400万本を突破し,500万本に迫っている。今年3月発売の「Wo Long: Fallen Dynasty」も100万本を突破し,Xbox Game Passを含めると,プレイヤー数は380万人を超えているという。

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