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「刑務所に戻りたい」と出所直後、トラックで2人をひき殺した盛藤吉高被告の告白「最初から殺すつもりはなかった。死刑は嫌」捜査への不満も

「死刑になりたくない、死にたくないという気持ちはあります……」
“刑務所に戻りたかった”という理由で二人をひき殺した盛藤吉高被告(53)は、拘置所の面会室でそう項垂れた。
一昨年、福島地裁での一審・裁判員裁判では死刑判決が下されたが、今年3月、仙台高裁での控訴審では、一転、無期懲役が言い渡された。現在、検察側が最高裁に上告している。
突然、トラックがUターンし…
事件を振り返ろう。2020年5月31日の7時55分頃、福島県三春町で地域の清掃活動に参加していた橋本茂さん(当時55)と三瓶美保さん(当時52)は、道路にコーンを置き、ガードレールとコーンの間でゴミ拾いをしていた。
反対車線を走っていたトラックが突如Uターン。二人めがけて時速60‐70kmまでスピードを上げ、コーンをはね飛ばし、二人をはねた後、止まることなくそのまま走り去った。
それから4時間後、現場から約15キロ離れた須賀川市内で、路肩に止まっているトラックを県警が発見。運転席にいた盛藤を緊急逮捕した。
わずか2日前に福島刑務所を出所したばかりだった盛藤は、就労予定だった郡山市の会社の従業員寮から鍵を盗み、トラックに乗り込んで走り続け、30分後、犯行に及んだのだった。
その後、盛藤が「刑務所に戻りたくて事故を起こした」などと供述したことで、故意であることが発覚。殺人の罪などで起訴された。
事件の当日、被害者二人を含む地域住民と共に清掃にあたっていた「桜川をきれいにする会」会長(当時)の影山初吉氏(75)はこう憤る。
「二人がはねられたと連絡を受けて駆け付けると、彼(橋本さん)は亡くなっていて、即死だったそうです。彼女(三瓶さん)は、辛うじて息がある状態で、その後病院で亡くなりました。彼女はゴミをたくさん拾ったから、はねられた時そのゴミが散らばって、広がったゴミの上に体があったんです。早朝から真面目にゴミ拾いをしていた、何の罪もない二人がこんな亡くなり方をするなんて、あんまりです」
6月下旬、盛藤は仙台拘置支所で記者の面会に複数回応じた。白髪交じりの短髪のがっしりとした体格で、紺色の半そでのポロシャツに薄手の短パン、サンダル姿だった。
顔の下半分はマスクで隠れていたものの、顔色はよく、長い拘置所生活の疲弊は感じ取れない。座る前に幾度か頭を下げ、口を開くと、出てくるのは東北訛りの朴訥とした穏やかな話し方だった。以下は、盛藤とのやりとりである。
拘置所の過ごし方は。
「ここで借りられる小説を読んで過ごしています」
刑務所に戻りたい、と思った理由は。
「慣れない環境や土地で不安でいっぱいでした」
当時の心境は。
「絶望、ですよね」
出所から2日後で仕事も住む場所もあった。他の前科者に比べて恵まれていたのではないか。
「慣れない環境のせいで不安で…」
刑務所に戻りたい、と思ったとしても、せめて人を傷つけない犯罪で捕まることは考えられなかったのか。
「不安でいっぱいになっていて、そんな時にトラックの鍵が目に入った。もうそれで当て逃げしようとしか考えられなくなった」
被害者に対しどう思っているのか。
「申し訳ないことをしたと思っています。罪を償っていかなければならないと思います」
一体どう罪を償うのか。
「それは…」
控訴したのは、死刑になりたくないからか、死にたくないと思う気持ちがあるからか。
「死刑になりたくない、死にたくないという気持ちはあります……」
「避ける余裕はあったはず」
仙台拘置支所。盛藤被告はここで記者の面会に応じた
裁判について話を向けると、それまでの口数の少なさが嘘のように饒舌になった。
「検察は、やったことを事実より大きく見せようとしているんです。当てて逃げようと思っただけで、殺す気はなかったのに、殺す気があったかのようにされてしまった。控訴審では、現場の状況から殺意を否定する根拠をまとめた交通事故調査会社の調査結果を弁護士が提出しましたが、証拠として認められなかった。社長の証人尋問だけが認められて、証言だけはしてもらうことが出来ました」
“殺すつもりはなかった”と言っても、常識的に考えて加速した車で人にぶつかれば、亡くなる可能性があることは十分わかっていたはずではないか。
「その時はそれしか考えられなくなっていたんです」
“戻りたかった”という刑務所内での生活はどんなものだったのか