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再考・犯罪被害者 「罪の重さ、親さえ忘れたのか」 高1殺害、出所後に支払いも連絡も途絶え

大阪府富田林市で平成21年6月、当時17歳の元少年に高校1年の次男、光貴(こうき)さん=当時(15)=を殺害された大久保巌(いわお)さん(58)と妻、ユカさん(58)は、やり場のない憤りを抱える。謝罪の気持ちがあれば賠償金を支払い続けるはずだが、出所した元少年や両親からは支払いどころか連絡さえない。「罪の重さを親も忘れたのか」。息子を失って十数年を経ても理不尽な思いは増すばかりだ。

事件から数カ月、巌さんは夢の中でさえ悲しみを忘れられなかった。目覚めるとぬれた目元に気付く。重い体を起こし、スーツを着て家を出る。眠たげに目をこすりながら登校する生徒たちの姿が亡き息子と重なる。「何で光貴だけおらへんのや」。嗚咽(おえつ)が漏れないよう口をふさぐ様子を生徒らに不審がられた。

14年前、光貴さんは富田林市内の河川敷で、自身の交際相手に一方的に好意を寄せた元少年に木製バットや木づちで何度も殴られ殺された。俳優を目指し「劇団に通いたい」と打ち明け、将来の道と真剣に向き合っていた頼もしい息子が、卑劣な犯罪の犠牲になった。

事件から4年後、巌さん夫妻は紳士服店を訪れた。中学当時の光貴さんと交わした「成人したらスーツを買う」約束を守るためだ。息子を思い浮かべ一着ずつ目を通す。「白じゃなくて黒やな」。黒シャツを手にしたとき、店員の一言で息が止まった。「寸法合わせのため、本人を連れてきてくださいね」

私たちだって光貴と一緒に選びたかった−。ユカさんは心の中でそう叫び、店内で泣き崩れた。

■裁判長も違和感

元少年は平成23年2月、大阪地裁堺支部の裁判員裁判で、懲役5年以上10年以下の不定期刑を言い渡された。当時の少年法は成人で3年以上の有期刑に当たる場合、上限が5〜10年の不定期刑にすると定めていた。「息子の命はその程度なのか」と巌さん夫妻は納得できなかった。

ただ、違和感を覚えたのは遺族だけではなかった。「5年で刑執行終了となる可能性がある点でも、10年を超えて服役させられない点でも十分とはいえない」。裁判長は判決公判でこう指摘し、「適切な法改正を望む」と異例の言及をした。

26年4月の少年法改正で、不定期刑の上限が10年以上15年以下に引き上げられるなどした。夫妻は「我々の事件をきっかけに少年法の厳罰化が進んだことは結果的によかったが、まだ十分とは言い難い」とする。

現行制度で加害者の処遇に意見を伝えられるのは仮釈放を審理する段階だが、夫妻は「服役の早い段階から意見を言えないのか」と疑問に感じ、刑務所や保護観察所に何度も足を運んできた。こうした声を受け法務省は今年12月までに、刑務所などが遺族の心情を聞き取り、加害者本人に伝える新制度を始める。巌さんは「きちんと更生につなげてほしい」と願う。

■子のみ支払い責任

度重なる法改正などで加害者を取り巻く環境は変化しているとはいえ、巌さん夫妻の苦しみは消えない。その一つが賠償金の不払い問題だ。

夫妻は元少年やその両親に損害賠償を求める訴訟を起こしたが、大阪地裁堺支部は26年2月、元少年のみに約1億800万円の支払いを命令。両親の監督責任は「予見は困難」だったとして認められなかった。

ただ、元少年の両親は当時「一緒に賠償する」とし、元少年の受刑中は両親から毎月10万円程度の支払いがあった。ところが、元少年が出所した約3年前、両親が一方的に「元少年だけが支払う」旨を連絡してきた。以降、元少年からの支払いはほとんどない。弁護士を通じて抗議しても連絡さえ寄こさない。

「大事な息子を奪われ、加害者が反省しているのかすら分からない」とユカさんの苦悩は続く。巌さんの怒りは元少年の両親にも向かう。

「罪を忘れ、自分の生活を優先している」