黒田日銀の異次元緩和に功なし
植田総裁は金融政策の正常化を


――黒田東彦前日銀総裁の10年間の異次元緩和の功罪について、どのようにお考えですか。

 功に当たる部分は見つかりません。

 金融政策を含め政策を決定する前に、日本経済が抱えている問題に対する判断、病気に例えれば診断、治療方針が必要です。診断の出発点はやはりバブル崩壊です。それから約30年間、日本経済は低迷しています。

 最初の10年は、不良債権という重荷がのしかかっていました。不良債権問題が解決したといえるのは2003年5月のりそな銀行への公的資金投入です。その間、97~98年に不良債権が原因で金融機関の大型破綻が相次ぎました。このころから賃金が低下し始め、物価もデフレ基調になりました。

――異次元緩和の前提となる日本経済に対する判断は、正しかったのでしょうか。

 2012年の総選挙で、当時野党の自民党総裁だった安倍晋三氏は、「日本経済の問題はマネーが供給されていないことにある。マネーを十分に供給していない日銀に責任がある」と強く批判しました。

 総選挙は自民党が勝利し、第2次安倍政権が誕生したのが12年の年末。明けた13年1月に政府と日銀の共同声明が発表されました。その中で日銀は2%の物価上昇を実現することにコミットしました。

 4月に黒田新総裁の下で「2年でマネーを2倍にして2%の物価上昇を実現する」という異次元緩和、いわゆる黒田バズーカが打ち出されました。その考え方はすでに触れたリフレです。不良債権処理が終了して10年近くたった12年時点でも、日本経済の問題の根源はデフレにあると認識していたわけです。