このオービス、実は「ハリボテ」です…「通行車の速度落ちた」と好評

 奈良県警吉野署が、持ち運びできる速度違反自動取締装置(可搬式オービス)を模した<かかしオービス>を運用している。紙製の張りぼてだが、製造元にも許可を得た見栄えで、見かけて速度を落とすドライバーも。署は一定の抑止効果があるとして今後も活用する考えで、「(取り締まり可能な)本物の場合もあるので、常にスピードは控えめに」としている。

 23日午前、大淀町内の国道309号で、トラックや乗用車が速度を落として走っていた。ドライバーの視線の先には三脚付きの白い箱(高さ59センチ、幅28センチ、奥行き35センチ)。可搬式オービスそっくりの見た目をした「ダミー」だという。

 可搬式オービスは自動で車速を計測し、速度超過を検知すると、ナンバーやドライバーを撮影する仕組みで、違反者には後日通知が届く。その場で停車させる必要がある通常のレーダー式装置での取り締まりと異なり、通学路や生活道路など比較的狭い場所で、少ない人員による取り締まりが可能で、2016年から全国で運用されている。

 県警は19年1月に導入し、現在は3台保有。今年は6月末までに可搬式による取り締まりを205回行い、計557件の違反車両を撮影して検挙対象とした。

 ただ、可搬式オービスの一つ「LSM―300」は1台約1100万円。容易に台数は増やせず、3台の装置を県内12署で運用しているため、各署の使用順は2、3か月に1度ほどしか回ってこないのが現状だ。また、通常の取り締まりには署員4、5人が必要で、小さな警察署では大きな負担になっていた。

 そこで考案されたのが、ダミーだった。今春、吉野署の若手交通課員2人が「本物そっくりの偽物を使うのはどうか」と提案。製造元の東京航空計器の許可も取り、3か月かけて製作した。厚紙にラミネート加工を施した箱形で、黒く塗ったカップ麺の容器をストロボ部分に見立てるなどした。実物にうり二つの外観で、走行中の車からだと見分けがつかないという。

 材料は全て署内で調達し、かかった費用は「0円」。片手で持ち上げられるほどの重さで、1人でも対応が可能になった。吉野署はこのダミーを7月に初運用。これまでに2回使用したところ、取り締まりを実施した地域の駐在所に、住民から「通行車両のスピードが落ちた」との声も寄せられ、効果が出ているようだ。署は今後も実物と並行して使用していく考えだ。

 吉野署管内では今年、死亡事故2件が発生している。北川真也交通課長は「実物の順番を待たずに使えるのがいい。県南部は狭い道やカーブが多く、スピードさえ抑えていれば、助かったのではないかという死亡事故も過去に起きている。これを機に安全意識を高めてほしい」と話している
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