中立性疑われる多摩市長

安倍晋三元首相暗殺事件をきっかけに、岸田文雄首相が昨年8月31日、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)とその関連団体との“絶縁”宣言をしてからもうすぐ1年。教団批判報道はめっきり減ったが、TBS「サンデー・ジャポン」は今、東京・多摩市内に教団が所有する土地への研修施設建設反対運動を取り上げている。

筆者は昨年12月5日付のこの欄で、メディアによる教団批判報道に煽(あお)られた大衆と政治が相互作用して過熱する教団バッシングについて「異質な小さな教団を排除しようとする空気は、全体主義への予兆」と書いた。多摩市における反対運動は行政、そして大学も巻き込むまでになっており、ここにも法治をないがしろにする危険な兆候が見える。

研修施設計画に対しては、「市民連絡会」が結成されて反対署名活動を行っている。7月24日には、集まった4万3805筆を阿部裕行市長に提出。その市長は番組内で(30日放送)「サンジャポが最後まで頑張らないと(旧)統一教会問題は阻止できない」などと、番組へのリップサービスを超え、行政の中立性を疑わせる発言をテレビカメラの前で堂々と行っている。

一方、教団所有の土地と隣接する国士舘大学も先月20日、教団に「直ちに本計画を中止し、及び本件土地から撤収するよう強く申し入れする」と、高圧的な申し入れを行った。その文面には昨年来、マスコミによって流されてきた教団の“反社会的”行為が並ぶ一方、法的根拠は示されていない。このため教団は「当法人に対する著しい事実誤認に基づくもの」(回答書)として現在、既存の建設物の解体工事を進めている。

この現状に、番組コメンテーターたちは「中止させることはできないのか」と不満の声を上げる。しかし、そこに釘(くぎ)を刺したのはMCの太田光(爆笑問題)。「法的に通っているにもかかわらず、これを『中止せよ』ということをすると、他の宗教団体に対しても、なんか『怖いから』ということで、宗教団体が建物を建てることすらできなくなっちゃう。それはそれでまた問題だ。だから、岸田さんが(解散命令請求を)どう判断するのか。それを先にしないと」

太田は6月25日放送でもこんなことを言った。「(教団を)批判するにしろ何にしろ、法的な段取りを取らなければいけない。こういう混乱が起きたのは、岸田さんが何にも考えずに『関係を絶ちます』と、ザツに言ってしまったからだという気がする」

岸田首相の解散命令請求が先にあれば、市民・行政・大学を巻き込んだ反対運動にも一応、法的な根拠があると言えるが、絶縁宣言も含め後先が逆になっているというのだ。

この回の放送で、阿部市長は施設建設中止の申し入れを行うため、教団本部を訪れたことに触れ、「市民の総意として、ここに何らかの建設を行う、あるいは解体工事を行うことについては一度踏みとどまっていただきたいというお願いをした」と説明、中止申し入れは「市民の総意」を強調した。

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