中国「暗黙の保証」のツケ 融資平台、債務2000兆円の山
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2023年9月3日 17:00 [会員限定記事]


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滝田洋一さんの投稿
滝田洋一

天津市では埋め立て地への企業誘致が進んでいない(天津市沿岸部)
中国で地方政府傘下のインフラ投資会社「融資平台」の債務が膨張している。国際通貨基金(IMF)の推計によると、2027年には100兆元(約2000兆円)の大台に乗る見通し。政府の「暗黙の保証」にタダ乗りし、債務を膨張させてきたツケが、住宅不況をきっかけに噴出しかねない状況になっている。



中国天津市沿海部。02年以来、海を埋め立ててできた2万7850ヘクタールの広大な空き地は原油をくみ上げる掘削装置(リグ)以外に動く物の気配がない。

17年の国務院(政府)の調査では、東京23区の5割近くに相当する埋め立て地のうち約3割しか企業誘致が進んでいないことが明らかになり、国務院が「盲目的な埋め立て」と厳しく批判する事態となっていた。

巨費を投じた埋め立て事業の失敗は天津の財政が痛む一因となった。民生証券研究院の分析によると、天津の域内総生産に対する負債の水準は約140%にのぼる。31省・直轄市中トップで「国際的な警戒ラインの60%を超えている」(周君芝アナリスト)という。

天津の融資平台が発行する債券(城投債、格付けはダブルAプラス)の23年の流通利回りは平均7.16%。ベンチマーク債と比べた足元の平均上乗せ利回り幅(スプレッド)は4%を超える。

同じ直轄市の北京市(0.9%)や上海市(0.6%)のスプレッドは1%を下回っており、内陸部で有力企業の立地に恵まれない雲南省や貴州省などと並んで投資家の警戒感が強い。



融資平台は、地方政府の指導の下、橋や道路などのインフラ投資の建設にあたる。IMFによると、23年の融資平台の債務規模は66兆元と、中央政府(30兆元)と地方政府(40兆元)の合計額に近い。年々増加が続き、IMFは27年に102兆元に達すると推計する。

融資平台の債務が際限なく増えるのは、政府の暗黙の保証にタダ乗りできるためだ。融資平台は保証料を払わずとも、政府並みのコストで調達できた。

中国の調査会社Windによると、22年の城投債の平均発行金利は約4%にとどまる。これまでは低コストで資金を集め、民営企業では難しい道路や橋、埋め立てなどの不採算プロジェクトに従事してきた。適正な金利が野放図な借金にブレーキをかける規律が働かなかった。

こうした構造は不動産不況で暗転している。不動産開発会社の経営難で地方政府の土地使用権売却収入は急減している。天津の22年の土地使用権収入は378億元と前年比65%減った。税収入と並ぶ財政の柱だった土地使用権収入の急減で融資平台に対する地方政府の支援余力が低下している。

融資平台リスクは金融システムに飛び火しかねない。融資平台が発行する城投債は、個人や企業が投資目的で保有する銀行理財商品や信託商品、公募・私募基金のほか保険会社などが主な買い手とみられる。

信託商品では、1兆6000億元がインフラ産業向けに投資される。融資平台向け貸し出しは主に各地の国有大手・地方銀行が担う。貴州省では昨年末、銀行が一部融資平台向け貸出金の返済を20年繰り延べており、潜在的な不良債権リスクが浮上する。



中国政府は融資平台の利子負担軽減や借入期間の延長を目的に「特別再融資債券」総額約1兆5000億元を地方政府に配分する見通し。ただ債務問題の根本的な解決には27年に102兆元に膨らむ融資平台の債務を中央政府が肩代わりするしかない。

それは隠れていたはずの債務が表面化し、44兆元の中央政府の債務が146兆元に、28%の国内総生産(GDP)比率が94%に高まることを意味する。

21年6月10日の上海での講演で、郭樹清・中国銀行保険監督管理委員会主席兼中国人民銀行(中央銀行)党委書記(当時)は「住宅価格は永遠に下がらない、という賭けをしている人は最後に大きな代償を払う」と発言した。金融改革派として知られ、今年退任した郭氏の発言は、住宅を投機の対象としてきた個人だけでなく、不動産価格の上昇を前提とする中国の成長モデル全体に対する警告でもあった。(上海=土居倫之)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM257FW0V20C23A8000000/