アメリカの「脱中国」実はまったく進んでなかった
ベトナム、メキシコに経由地が変わっただけ
2023/09/04 9:00
The New York Times

中国政府の安全保障上の脅威や人権問題、重要産業の支配に対する懸念が高まる中、アメリカは過去5年間にわたり、コンピューターチップや太陽光パネル、その他さまざまな消費者向け輸入品で中国への依存度を引き下げる取り組みを進めてきた。

ところが、政策担当者や企業幹部が中国との関係を断ち切る方法を模索している最中にあっても、中国製品は他国経由でアメリカに流入。アメリカと中国という世界トップツーの経済大国が依然として深く結びついていることを示す証拠が増えている。

新しく発表されたり、近く発表が予定されたりしている経済論文は、アメリカの中国依存度が実際に下がっているのかどうかに疑問を投げかけ、最近の貿易関係の変化が世界経済とアメリカの消費者にとって何を意味するのかを問いかけるものになっている。

中国からの輸入は表面上減ったが…

トランプ前政権が課した懲罰的な関税と、バイデン政権が課した中国に対する厳しいテクノロジー輸出規制が実行に移される中で、世界の製造業とサプライチェーンの変化は今も進行中だ。

こうした貿易ルールの見直しなどを受けて、アメリカの輸入における中国のシェアは低下したものの、ベトナムやメキシコといった他の低コスト国からの輸入シェアは高まっている。バイデン政権は半導体、電気自動車、太陽光パネルの国内生産に対する優遇措置も強化しているため、アメリカ国内の製造拠点は急速に増えている。

だが、8月26日にワイオミング州ジャクソンホールで開催されたカンザスシティ連邦準備銀行の年次シンポジウム(ジャクソンホール会議)で議論された新しい研究によると、世界貿易のパターンは変化したとはいえ、アメリカのサプライチェーンは依然として中国の生産に大きく依存しているという。以前ほど直接的な依存ではなくなったというだけの話だ。

ハーバード・ビジネス・スクールのエコノミスト、ローラ・アルファロとダートマス大学タック・スクール・オブ・ビジネスのエコノミスト、ダビン・チョーの論文によると、アメリカの輸入における中国のシェアは2017年の約22%をピークに2022年には約17%まで低下した。

機械、履物、電話機などのカテゴリーでアメリカの輸入品に占める中国の割合が低下した。そうした中でシェアを伸ばしたのがベトナムなどで、ベトナムなどからは衣類や繊維製品の輸入が増え、近隣のメキシコなどからは自動車部品、ガラス、鉄鋼の輸入が増え始めた。

最終ステップを「移している」だけ

アメリカが中国依存度を低下させている兆しと映る動きだが、実はそこには問題がある。メキシコとベトナムのどちらも中国製品の輸入を増やしており、さらに両国に対する中国からの直接投資の急増は、中国企業がこれらの国々で製造拠点を増やしていることを示すものだからだ。

こうした傾向は、企業が長大なサプライチェーンの最終ステップを単に中国から別の場所に移しているだけで、中にはベトナムやメキシコのような国々を中継地として、部分的もしくは大部分が中国で製造された商品をアメリカに送り込んでいる企業があることを示唆する。

アメリカと中国のデカップリング(切り離し)を支持する人々は、中国からの脱却は例外なく良いことだと主張する。だが、サプライチェーンの再編は別の結果ももたらしているようだ。論文では、サプライチェーンのシフトは商品価格の上昇と関連していることが確認されている。

論文著者の計算によると、中国からの輸入シェアが5%低下したことで、ベトナムからの輸入価格は9.8%、メキシコからの輸入価格は3.2%押し上げられた可能性がある。さらなる調査が必要とはいえ、この影響は消費者物価の上昇(インフレ)に若干寄与している可能性があると著者らは述べている。

「コストに影響を与える可能性が高いというのが私たちの第1の警告で、(中国)依存度を低下させる可能性は低いというのが私たちの第2の警告となる」。アルファロは取材に対し、そう語った。

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https://toyokeizai.net/articles/-/698871?page=2