冷戦時から首相、防衛相にも知らせず、身分偽装した自衛官がロシア、中国、韓国、東欧などに拠点を設けてスパイ活動を行っている、陸上自衛隊の非公然秘密情報組織「別班」がいま、大きな注目を集めている。
かつて自衛隊に体験入隊した三島由紀夫に、有名作家だと誰にもバレないように変装して東京都台東区の山谷地区に潜行する訓練や、チームプレーによる尾行訓練といった、“最も深い影の部分”を指導したのは、陸軍中野学校の元教官で、戦後は「別班員」の育成に従事した人物だった。

そんな帝国陸軍から引き継がれた“負の遺伝子”ともいうべき「別班」の実体に迫った『自衛隊の闇組織 秘密情報部隊「別班」の正体』を上梓したあと、
東京・市ヶ谷の防衛省に勤務する背広組(防衛官僚)、制服組(自衛官)らの、私に対する反応はさまざまだった。

大臣室などがある防衛省の本館・A棟の廊下で会った旧知の陸上自衛隊幹部は、目が合うと近寄ってきて、小声で私にこう告げた。「一佐(一等陸佐)の自分が知らなかったことばかり。でも内容がヤバすぎる。書いてしまって本当に大丈夫なんですか?」

A棟の廊下で黙礼を交わした別の自衛隊幹部は、擦れ違いざまに一言、周囲に聞こえないよう、こうささやいた。「気をつけて下さいね」

一方、厄介な話に関わりたくないということなのか、長年にわたる知り合いなのに、これまでと違って視線をそらす人も出てきた。

陸上自衛隊幹部でさえまったく知らない闇組織、幹部でさえ恐れる非公然部隊――本当にそんな組織が陸上自衛隊内に存在するのか。どんな海外情報活動をしているのか――記事にするべく「別班」の影を追い続けた、この5年半だった。

自衛隊幹部から脅迫めいた言葉を聞いたこともあった。「本当にあなたが虎の尾を踏んでしまったら、(別班は)あなたを消すぐらいのことはやる」

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