そんな中、日本では理化学研究所と富士通、東京工業大学、東北大学が、スーパーコンピュータ「富岳」を使ったLLMの研究を今まさに進めている。学習手法の研究からデータの法的な扱いまで幅広く検討し、日本のLLM開発の基盤を作るのが目的だ。

 深層学習といえば、今ではGPUを使うのが一般的になっている。しかし富岳はそのGPUを搭載していない。日本にはGPU搭載スパコンも存在するのに、なぜ富岳を使ってLLMを研究するのか。

 今回は富士通研究所・コンピューティング研究所の中島耕太所長と白幡晃一さんに、富岳を使ったLLM研究について、その意義を聞いた。富岳は確かにハイスペックなスーパーコンピュータだ。しかし、LLM研究における活用には、それだけでないもっと“現実的な理由”があった。

LLMの学習には大量の計算が必要になる。では、具体的には何回以上計算すればいいのか。これには一つの答えがあるという。

 その数字が「10の23乗FLOPs」だ。富岳をはじめとするスーパーコンピュータの性能を示すとき「このスパコンの計算速度は○○FLOPsです」のようにいうことがあるが、今回の「FLOPs」は計算速度ではなく計算量を示す単位のこと。平易に書くなら「10の23乗回」となる。10の23乗は日本語でいうと「1000垓」。1兆の1億倍のことだ。

 中島さんによると、過去の研究の中でLLMには不思議な性質が見つかっているという。LLMの学習を進めていると、しばらくはあまり派手な性能向上が見られないのだが、ある時点でなぜか急に能力が跳ね上がり、それまでできていなかったような処理をできるようになる──それが10の23乗FLOPsだ。

 つまり、LLMを開発するならスーパーコンピュータに1000垓回分の計算をさせることが一つの目標になる。

一方で、1000垓規模の計算をするにあたっては、富岳以外の選択肢もある。一般的に深層学習に向いているとされるGPUを搭載したスーパーコンピュータとしては、産業技術総合研究所が構築・運用する「ABCIシステム」が日本最大とされてきた。搭載されているGPUの計算処理性能も富岳のCPUを超えている。

 富士通研究所の白幡さんによると、ABCIシステムを完全に貸し切って10日ほど計算させれば、1000垓規模の計算をすることも「技術的には可能」(白幡さん)という。

 しかし、現実的にはそうもいかない。ABCIシステムはさまざまな組織が共用しているものであり、長時間貸切ることが難しい。性能は高いが占有できないという“現実”がハードルになっている。

 対して富岳は、各CPUの処理性能を見るとABCIシステムのGPUの17.75分の1程度。しかし、現実的に使えるリソースの規模を考慮すると1000垓規模の計算を実現できるのは日本で富岳だけになるという。

https://news.yahoo.co.jp/articles/1bdbea8e1c974b020735b44d446548a1a38d188e