木内 登英 円安は国力低下のせいではない

国力低下の下で進んだ超円高
それは、ほとんどの国の通貨が、対ドルで下落を続けていることでも明らかだ。
すべての国で国力が落ちているはずがない。米国の国力が向上しているとも言えない。

また、生産性上昇率や潜在成長率で国力を測るというのであれば、バブル崩壊以降、両者は低下トレンドを辿っている点に注目する必要がある。
その中で、1ドル100円を超える円高、2008年のリーマンショック(グローバル金融危機)後には、70円台までの超円高が生じたのである。
この円高を、日本の国力の向上の結果と考える向きはいないだろう。

生産性上昇率や潜在成長率が低下すると、賃金上昇率や物価上昇率のトレンドは低下しやすくなると考えられる。
そうなれば、他国に比べて物価上昇率が低い国の通貨の価値は高まる。それは、購買力平価の考え方に基づく。

このように、生産性上昇率や潜在成長率が低下し、国力が低下している国こそ、通貨高に見舞われやすいのである。
この点から、「通貨安は国力低下の表れ」と考えるのは誤りだ。

貿易・経常収支の悪化が為替需給に与える影響は小さい
海外からのエネルギー輸入依存に頼る日本は、エネルギー価格上昇時には貿易収支・経常収支は悪化しやすく、
それが円売りドル(あるいは外貨)買いの実需を生むことは確かである。

2021年の日本の経常収支は19.1兆円の黒字だった。国際通貨基金(IMF)の10月の世界経済見通しによると、
日本の経常収支のGDP比率は、2021年から22年にかけて1.5%程度低下すると予想されている。実額では8兆円程度の悪化となり、経常黒字額はほぼ半減する見通しである。

しかし、東京市場での1日の平均取引額は54兆円程度と推定されるのと比べると、
年間8兆円程度の経常収支の悪化が為替需給に与える影響は極めて小さい。

エネルギー価格上昇で日本の貿易・経常収支が悪化したから円安になったのではなく、
エネルギー価格上昇が米国の利上げを加速させたから円安になったのである。

https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2022/fis/kiuchi/1025