──『ベルセルク』連載再開時に出されたリリースには、監修すべきかどうか悩んだとありました。

森恒二(以下、森):三浦不在では『ベルセルク』は不可能ですからね、普通に考えたら。なので、冗談じゃない、本当にやめてくれと思いました。でも三浦が描きたかった最終回を知っている人間が僕しかいなかったわけですから、残さないわけにはいかない……そういう気持ちでしたね。

──30年近く前、三浦先生から呼び出されて1週間も軟禁されながら『ベルセルク』のストーリーの相談に乗ったそうですね。

森:高校時代からお互いに相談しながら漫画を描いていたので、いつもの感じかなと思って行ったら、話が1週間終わらなかったんですよ(笑)。『ベルセルク』は最初の「黒い剣士」のときはそこまで大人気というわけじゃなかったんだけど、主人公のガッツが過去にグリフィスと出会って、鷹の団の仲間ができた「黄金時代」でグーッと人気が出たんです。

 本当は「黄金時代」はもっと話が短かったんですけど、すごい長くなって。だけどその先で“蝕”をやらないといけない、そのためには鷹の団の仲間たちを生贄としてほぼ全滅させるのは決まっているわけですよね。その相談に乗って、そのときの勢いで「最後まで打ち合わせしたい」と言うんで、2人でこの世界の仕組みとか、あやふやだったものをいろいろ設定し直して、最終回まで考えたんです。三浦って「確かアレがいたよな?」「あのキャラクターって、ああだったっけ?」と、僕を記憶倉庫に使うんですよ。それで僕が覚えてないと、三浦怒るんです。僕の漫画じゃないのに(笑)。

──『ベルセルク』メモリアル号(ヤングアニマル2021年18号)の付録冊子に掲載された自伝漫画『モリちゃん ケンちゃん』にも「お互いの脳を共有する」というエピソードが描かれていました。

森:その1週間は毎日3時間くらいしか寝てなかったんじゃないかなぁ。ファミレスに長時間いすぎて追い出されたり、そこの駐車場にいた暴走族と揉めて警察が来たり……いろんなことがあって(笑)。それ以降、新しいアイデアやキャラクターを思いついたりすると、微妙に最終回が変わってくるんです。大きくは変わらないけれども、「こんな感じになる」とそのたびに三浦から話を聞くから、最終回についてはもう何十回も聞いているんです。

──監修の依頼はどんな経緯だったのですか?

森:もともと「続きをどうしようか」という話だったんです。最初、島田さん(※元『ベルセルク』担当編集者)から「森ちゃんは知ってるよね?」と言われて。それで僕がイラスト描いて、最終回までのストーリーを文章にして、みんなに知ってもらう感じにすればいいんじゃないかという話をしていたんです。

 でもそれじゃ到底伝わらないよなぁ……と思っていたら、「(第364話を)スタッフが全部描き上げた」というので原稿を見せてもらったら、どこから三浦がいなくなったのかわからないくらいすごかったんです。それを見て、スタジオ我画のみんなにも熱意があるし、完全な形にはならないけれども、最終回までできるんじゃないかと。

──監修の仕事はどんなことをなさっているんでしょうか。

森:打ち合わせで内容を伝えて、スタジオ我画から上がってきたネームと下書きを見て、「こっちからのアングルで見せてくれ」「ガッツはそこにいないで」「こういう姿勢で立たせてくれ」といった三浦の作画の癖や演出のアングルを伝えています。三浦も僕も16歳から、お互いの漫画を説明するのに身振り手振りでやっていたから、おっさんになってもずっと同じ方法でやってたんですよ。ガッツがこう来て、シールケが「ガッツさん!」と言う、そうすると、みたいな感じの打ち合わせがなされていたのでキャラ……というか三浦の動きを覚えているんですよね。僕も『ホーリーランド』を描くときに「三浦、そこに立って!」みたいなことやってましたから。なんかね、やってみる方がお互いいいんですよ、恥ずかしい話ですけど(笑)。


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