ナチ党(国民社会主義ドイツ労働者党)政権は、資産家に厳しく、庶民には実際の利益をもたらしたために、
広範な支持を得たという説がよく唱えられる。

しかし、歴史学者のマルク・ブッゲルンは、最近の論文でこの説に反論した。
当時のドイツの再分配政策は他国と大きく変わらず、むしろ格差が広がったことがわかるという。

たしかに、ドイツの事例のみを観察すると、ナチ政権が社会における不平等に対処しようとしていたという印象を受けます。
第二次世界大戦以前、すでに高所得者への増税がおこなわれていました。
1941年までに最高税率は65%に引き上げられ、これは現在と比べると非常に高いものでした。
それとは反対に、労働者への負担はそれほど引き上げられませんでした。

──どれくらいの人がその税率に該当したのですか。

1000万ライヒスマルクは、3ヵ国でおそらく100人以下しか稼ぐことができなかった高額な所得です。

──ほかにはどの点においてですか。

富裕層に負担を課すのに効果的な手段である相続税においても、事態は同様に明白です。

英国と米国では、単独相続人はそれぞれ65%と77%を納税しなければならず、保守的な日本であっても税率は60%でした。

それに対し、ドイツの税率はたったの15%に過ぎませんでした。
またクルップ王朝(ドイツの鉄鋼王クルップ一家。ナチとの関係が深かった)の場合、
当主が亡くなった際に税金が生じないようにするために、独自の法律「クルップ法」が制定されました。

──もっと低い所得における比較はどのようになりますか。

1941年のドイツにおいて、4000ライヒスマルク(約280万円)を稼ぐ労働者、
つまり高い専門技術を持つ労働者は22%の税金を支払っていました。
似たような収入で、英国では21%、米国では2%のみが課税されていました。

ナチスは「労働者の味方」ではなかった
https://courrier.jp/news/archives/340723/