「80トンの在庫を抱えて」中国の“禁輸”で過剰在庫のホタテ、余っていても“安く売れない”理由

11/27(月) 8:54配信

東京電力福島第1原発処理水の海洋放出をめぐり、中国が日本水産物の輸入を全面停止したのが2023年8月末。特に北海道産のホタテは、その約8割が中国への輸出だったこともあり、大打撃が見込まれた。政府が国民に「中国への輸出が多かった水産物」を国内で消費するように呼びかけを行う事態にまで発展した。
行き場を失ったホタテが過剰在庫となっている報道もあったが、現在はどうなっているのか。北海道でホタテを中心とした海産物の加工を行う「枝幸海産」の松島修一社長に話を聞いた。

■80トンの在庫を抱え、倉庫がパンパンに

中国が輸入規制をしたのが8月24日。ホタテの名産地でオホーツク海に面する北海道枝幸(えさし)町の町営倉庫では、高さ8メートル程度の天井近くまで一気に在庫が膨らんだという。

「出荷は一時、完全に止まりましたね。うちは普段、在庫をほとんど持っていませんが、一気に80トンほどにまで在庫を抱えることになりました」と松島社長は話す。

それに対し北海道議会は、9月の初めに緊急の補正予算案を提出し、国内への販促のため8800万円の予算を盛り込んだ。

一方で政府は、9月29日に宮下一郎農林水産大臣が「ホタテを年に5粒食べて」と、国内での消費を呼びかけ、支援策に200億円程度を充てる方向で調整。

その影響はやがて現れはじめ「10月に入ってからは、おかげさまで在庫が徐々に減っていきました。うちもなんとか年内には在庫をなくして、いつもの状態で運営ができそうです」と松島氏。

■余っているホタテを“安く売れない”理由

枝幸海産が大量の在庫を抱えていたのが1か月程度。ただ、年末まで在庫があるとすれば、四半期ほどは影響が続いたことになる。そのため松島氏は「もちろんまだ確定はしていませんが、今度の決算は黒字にならない覚悟をしなくてはいけないでしょうね」と肩を落とす。

しかし、ネット上ではこんな声が多く見られた。

「スーパーで見かけないよね」
「そんなに在庫があるなら無償提供してほしい」

確かに、在庫が増えれば価格が下がるのは自然な市場原理。しかし、それが即座にできない事情があると松島氏。

「ホタテは処理によって2年ほど冷凍できるので、去年の在庫を持っている業者もいます。それらは、在庫が増えて値が下がった現在よりも、1000円/kgほど高く仕入れたものなんです。ですので、あまりに安く売ってしまうと赤字が出てしまいます」

それでも、現在の状態では安く売るしかなく、赤字を垂れ流しながら販売している業者も増えてきたという。つまり、現在販売されているホタテは、実際に3割ほど安くなっているが、その背景には、膨れ上がる業者の赤字が存在しているのだ。

また、組合などの取り決めで「昨年仕入れたものを売り切らないと、新しいものを仕入れてはいけない」という取り決めがあった地域もあると同氏。中国という大口の販売先が失われただけでなく、高く仕入れたものを安く売らなくてはいけない状況が生まれてしまった。

■「中国に輸出していない」のに…

こうした現状に仲卸の業者や海産加工業者は大きな損失を被っている。ホタテについては中国依存度が高かったことも原因のひとつだ。しかし、苦しみはそればかりではないようだ。

「取引が中国一辺倒だったことをネットで叩かれました。しかし、弊社は『中国には輸出せず、基本的に国内向け』に販売しているんですよ。なので、風評被害を受けたような形になりましたね」

何か問題があればすぐに炎上してしまう現代。「ホタテ業界」と大きな主語で考えて問題のない会社にまで攻撃をする人もいるようだ。

https://news.yahoo.co.jp/articles/74bd3ca81dfc5d166d6024d17264030d4b7e0d1a