「善なる民衆 vs 悪の政府」という二項対立

連合国も日本政府もゴジラに対して何もできない。そのような背景が説明され、民間主導のゴジラ撃滅作戦が発足します。

対策チームは繰り返し「人命尊重」を説きます。戦前の政府はあまりに人命を軽んじた、その結果として首都は灰燼に帰し、天文学的な数の人命が失われた。我々民間はその轍を踏まない。ゴジラは倒すが、命を粗末にするようなことはしない───。

この演説が始まったあたりで、自分のテンションはゼロ付近まで下がりました。「清廉潔白な民衆 vs 悪の政府」という陳腐な歴史観をまーた観なきゃならんのかと。シン・ゴジラが「民主国家は武力行使にどう向き合うべきなのか」というテーマにある程度しっかり向き合おうとする作品だっただけに、そのアンチテーゼを志す作品に対しても期待値が上がってしまったところがあるとは思うのですが、鑑賞中は絶望すら感じました。

言うまでもなく、大日本帝国の拡張政策は軍部と政府のみが主導したわけではありません。日本人の多くがその侵略を支持し、特に財閥をはじめとする民間企業は日本の侵略戦争の「主犯」のひとりでもありました。

だからこそ対中拡張政策に反対する皇道派将校は2.26事件において三井・三菱の両財閥を攻撃目標に掲げ、戦後においてGHQも財閥解体に踏み切ったわけです。大戦を招いた原因のひとつである日本の対外侵略について民間企業はずっぷりと関わっており、「平和主義の民衆に政府と軍が犠牲を強いた」という構図では戦前は決して総括できません。
https://note.com/wakari_te/n/nf7cd816d2645