輪島市から現在、車で1時間半かかる南志見地区の農村環境改善センターは11日までは避難所だった。今は避難先の住所や連絡先に加えて「避難民は0になりました」と書いた紙が玄関に張られていた。
土日は自宅の様子を見に来る避難者がいるが、平日はひとけがない。市議会副議長の大宮さんは「人間のおらん家は不思議な感じや」とぽつり。
「わしは雑用係。みんなが一日も早く戻るため、こっちの情報を金沢におる人に伝えとるんや。できることやってかんと前に進まんからな」。
大宮さんは停電解消や仮設住宅の建設に向け、市と連絡を取りながら避難者に地元の状況を伝えている。
そこから林道を歩いて約40分、山奥に入ると一軒家があった。米や野菜を作って生活する建築構造設計の鴻さんと妻の章子さん(65)、愛犬テテが広さ8畳のまきストーブ付きの事務所兼木造小屋で暮らしていた。
章子さんは11日、金沢市卯辰山健康交流センター千寿閣に避難した。「手厚く気を使ってもらった」と感謝の言葉を口にするが、じっとしたまま食事の提供を受ける生活になじめず、8日後、自宅に戻った。
鴻さんは「ふるさとを離れられんかった。テテは甘えん坊だけど、イノシシを追い払う番犬。避難所に連れて行けん」と話した。
食料は2カ月分、特に米は1年分あり、生活に困ることはないという。こんな状況でも鴻さんは「自然栽培に興味のある若い人を受け入れて手助けする場所にしたい」と前を向いていた。
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