滞仏日記「漫画家さんの死に心痛を覚える。ドラマが原作者を殺すことに反対する」
辻仁成

芦原さんがテレビ局と結んだ契約は、「原作に忠実に再現する」ということが盛り込まれていたというし、
他にも、相談できる関係者はいたはず。

芦原さんが、約束が違うと悩み、ご自身で最後の方の脚本を書かれたようだが、いろいろとしこりが残ったのだろう、
傷つき、そこに信頼を託せる人間が介在していなかった、ということが一つの要因となり、
ごめんなさい、というような原作者なのに謝罪しなければならない辛い立場においやられ、
お亡くなりになるという最悪の事態になってしまった。

誰が悪いというのは、部外者のぼくにはわかるはずもないが、少なくとも、原作者の、原作、
という言葉の重みを思い出してもらいたい。

そこに読者がいて、そこにもともとの原案、つまり、作者の意思があって、生まれた作品の根っこなのである。
それなのにテレビ局は、他人事のようにニュースで「感謝しております」、は違うのじゃないか、と思うのはぼくだけだろうか。
人がこの問題で苦しみ、亡くなられて、感謝、という言葉は、おかしい。

双方にどのような行き違いがあったのか、わからないが、死は残酷すぎる。
テレビ局や脚本家さんや制作サイドや出版社を攻撃するな、という人がいるが、攻撃ではないし、
第二、第三の不幸が訪れる前に、このような体質を改めるべきではないか、と思うのだけれど。

原作者に誰が寄り添うことができるのか、と自分のことではないが、悲しすぎて、ため息がこぼれる。
なぜ、芦原さんが死ななければならなかったのか、テレビ局は第三者の究明委員会を結成し、
視聴者や芦原さんの家族やファンに対して、また、ドラマのスポンサーをやった企業に対して、
説明する必要があるのじゃないか。

彼女の痛みは、彼女の作品が好きだった人だけじゃなく、コツコツと作品を創作してきた
あらゆる表現者に通じる苦悩なのだ。
https://www.designstoriesinc.com/jinsei/daily-4734/
つづく