男女の賃金格差是正は待ったなしだ。しかし実は、それが逆に婚姻率の低下や、ひいては少子化の加速を招きかねない「不都合な真実」がある。『少子化問題の社会学』などの著書がある東京大学大学院人文社会系研究科の赤川学教授は「賃上げは、男性にとっては婚姻率が上がる恩恵があるかもしれないが、女性の婚姻率上昇には効果があまり見込めない」と話す。なぜか。

実は女性の所得が高いほど、婚姻率は下がる傾向にあるからだ。総務省統計局の「令和4年就業構造基本調査」を分析すると、女性は年間所得が上がるにつれて、配偶者がいる割合が低くなる傾向がある。年収が上がると配偶者がいる割合が高まる男性とは逆の傾向だ。

なぜ未婚女性の方が所得が高い傾向にあるのか。未婚女性は自分で生計を立てなければならないことが多く、必然的に所得は高くなる傾向がある。一方の既婚女性は、結婚や出産を機に仕事を辞めたり、パート・アルバイトなどの非正規雇用になったりする人も多い。

だが、こうした事情を差し引いたとしても、所得の高い女性に未婚者が多い理由がある。それは、多くの女性は自分よりも学歴や収入がある男性と結婚する、いわゆる「上方婚」を望んできたからだ。女性がキャリアを持てず、収入が少なかった頃には、結婚の「経済的メリット」があった。しかし、女性活躍が進むと、金銭的な魅力は減る。男女の賃金格差が縮まる中で上方婚を求め続けると、収入が低い男性は見向きもされなくなる。結婚への意識を変え、上方婚と逆の「下方婚」を増やすことが、婚姻率を上げるカギと言える。

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