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「火垂るの墓」の清太がよくないお兄ちゃんだったのは、野坂昭如がそうだったからだった。 [136963135]
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0001安倍晋三🏺 ◆ABeSHInzoo (ワッチョイ 895f-wZmO)
垢版 |
2024/02/03(土) 15:11:16.67ID:KE1VAnJN0●?2BP(2000)

「アニメ恐るべし」小説新潮1987年9月号

ぼくの小説の中で、これはどうやら男性より、女性の方が読んで下さっているらしい『火垂るの墓』がアニメーション映画となる。
これまで、この小説映画化の話は何度かあって、いちばん具体的だったのが、去年亡ったKKベストセラーズ社長岩瀬順三の企画。
『火垂るの墓』の時代は、昭和二十年初夏から、夏の終わり、即ち敗戦直後まで。

舞台は焼跡と、蛍の乱舞する池や川や野っ原、人物といえば、痩せこけた少年と幼女、及び殺気立ち、かつ飢え、さらに家財産すべて失ったが、
失う予感に怯える大人。なによりかより、本土決戦つまり民族滅亡を目前にして、
ヤケクソとばかりもいえない、奇妙な明るさに充ちていた、あの年の夏を、どうやって映像にするか。

小説の映画化に当たって、ぼくはこれまでいっさい注文をつけたことがない、両者は別物であり、
いかに換骨奪胎されようが知ったこっちゃないと考えているが、『火垂るの墓』だけには原作者としてのこだわりがあった。
https://imgur.com/
0002安倍晋三🏺 ◆ABeSHInzoo (ワッチョイ 895f-XzCq)
垢版 |
2024/02/03(土) 15:11:29.61ID:KE1VAnJN0
この小説は、ぼく自身の体験と、かなり重なっている。以前にも書いたが、ぼくは、作中の少年ほど、妹にやさしくはなかったし、
いかに小説とはいえ、周辺の大人たちを、ずい分悪く書いているのだ。

いわば、お涙頂戴式のおもむきがあって、申し訳ないというだけではすまない、といって罪の意識と大袈裟なものでもない。
もし、かわいそうな戦争の犠牲者の物語に仕立て上げられたら、なおぼく自身、いたたまれないし、また、映画化といっても、
焼跡をどう再現するのか、飢えた人間の表情は、メーキャップによっては、作り得ぬ。

さらに小説では触れていないが、さだめとして、一億玉砕を、覚悟したのでも、受け入れたのでもない、
明日をも知れぬ日々を、漂い流れつつ、妙にあっけらかんとしていた、あの時代をまるごと、描いてもらいたい気持ちも強い。
つまり、映画化は不可能ということだ。
0003安倍晋三🏺 ◆ABeSHInzoo (ワッチョイ 895f-XzCq)
垢版 |
2024/02/03(土) 15:11:41.11ID:KE1VAnJN0
アニメーションの話が飛び込んできた。ぼくは応じた。
監督の高畑勲氏と何度かしゃべり、小説に描かれている場所を、スタッフと一緒に歩き、その、ラフスケッチとでもいうのか、
イメージを確かめ、ぼく自身、ちょっと冒険をするような感じで、おまかせすることにした。

四十二年前と現在と、当然、風景は大違いだし、いわゆるアニメの手法で、飢えた子供の表情を、描き得るものかと、危惧していたのが、
これはまったくぼくの無知のしるし、スケッチをみて、本当におどろいた。

葉末の一つ一つに、蛍の群がっていた、せせらぎをおおいつくす草むらの姿が、奇蹟の如く、えがかれている。僕の舌ったらずな説明を、
描き手、監督の想像力が正しく補って、ただ呆然とするばかりであった。

スタッフを案内したのは、ぼくが、二か月余り過した場所、小説の舞台と重なり合う家並み、道筋から、少し離れたところ。
どうせ以前とはまるで変っているのだからと自分に弁解しつつ、実をいうと、今でもそこへ近づくのが怖い、ぼくにとって、犯罪現場といっていい。

ところが、シャーロック・ホームズの如く、スタッフは、見たはずのない『火垂るの墓』、いや、ぼくの過した時間と空間を、正確につかんでしまったらしい。
おかげで、吹っ切れた気持ちもする。『火垂るの墓』を書いた自分にこだわって、いわば、自らを映し出す鏡から、眼をそむけつづけてきたのだ。
ラフスケッチの一枚からひき出されてきたぼくの過去と、今は、少し正直に向き合っている。
しみじみアニメ恐るべし。
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