なぜ人は電車で「中ほど」まで進まないのか
川西由美子・ランスタッド EAP総研所長に聞く

中略

川西:心理学的観点から見れば、同じ「中ほどまで進まない人」でも、大きく3パターンに分類できると考えています。奥へ行かない理由としてまず考えられるのは、単純明快、「気が利かないから」です。心理学的に言えば「ドア付近にいたら、乗り降りする人に迷惑だな」とか「自分が奥まで行かないと、後から乗ってくる人が乗り遅れかねないな」などと思考する回路が、脳に十分作られていない人、ということになります。

ドア付近を好む人の中には、ドアの両脇に門番のように立たれる方もいますよね。シートの縁へもたれて。例えばあの方々も「ここに立っていたら、背負っているリュックや自分の髪の毛が、後ろに座っている人の頭に当たって、不快に思われるかもしれないな」と想像する回路が脳にない、と。

川西:理屈の上では、そういうことになります。

「気を利かせる回路」がない人々
それって言い方は悪いですけど、「頭があまりよくない人」ってことになりませんか。「中ほどまで進まない人」全員が、その脳の回路とやらに問題があるのでしょうか。だとすれば、日本の将来が危ぶまれるのですが。

川西:全員がそうだというわけではありません。あくまでパターンの1つです。ただ、今の日本で「気が利かない人」が増えているのは間違いない。今申し上げた「回路の有無」は、頭の良し悪しとは関係ないんです。学校の勉強ができて、有名な会社に勤めていても、電車の中ほどまで進まない人は沢山います。

なぜ、回路がない人々が増えているのですか。やはり環境ホルモンだか何だかの影響で「学校のお勉強はできるけど、頭がよくない人」が増えているとか?

川西:いえいえ。そもそも「気を利かせる」という能力は、必ずしも先天的才能ではありません。基本的には後天的に身に付くものです。何より影響を及ぼすのが幼少期。単純化して言えば、脳の形成期に「気を利かせることはいいことなんだ!」と強く実感する経験と記憶を数多く積んだ子は、それだけ気を利かせられる大人に育ちます。

子供なりに機転を利かせ、周囲に気を配ったり友達に優しくしたら、親はきちんと褒めねばならない、と。

川西:ただ「ありがとう」「いい子ね」といった定型的な言葉で褒めても、大きな効果は望めません。脳は反復して起きる物事は習慣化しスルーする機能があるからです。ただ褒めるのでなく、「なぜそれが良いことなのか」「周りはどうして喜んだのか」など、“褒める意味”を明確化して褒めねばなりません。

https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00059/053100009