理想の男性像に“女性的な一面”
指導的立場にある人物が人前で泣くのは、弱さの表れだろうか?
2024年1月14日、デンマークのフレデリック皇太子が、新国王フレデリック10世として即位した。この日、母親のマルグレーテ2世が退位宣言に署名した後、新国王は議会なども兼ねる首都コペンハーゲンのクリスチャンスボー城のバルコニーに出て、集まった30万人の群衆を前に何度も手を振り、涙を流した。
米紙「ニューヨーク・タイムズ」や「ワシントン・ポスト」、英紙「ガーディアン」は、この感動の瞬間を熱を入れて報道。デンマークのある新聞は「国王の涙」と簡潔に見出しをとり、ゴシップ誌は国王が目元をぬぐう一連の画像を掲載した。
世界の大部分では、涙と男らしさは相入れない。泣くという行為は、特に責任ある立場の男性であれば、脆弱性や弱さの証拠だと受け止められる可能性もある。感情を表に出すことは女々しすぎると見なされるのだ。
だがデンマークでは、涙を見せたことで国王の人気が下落することはなく、むしろ上昇。同国では、女性的な一面を見せることが男らしさの核心とされているのだ。
より安定した「男らしさ」の秘密
デンマーク人の心理学者である筆者は、同国の独特の男らしさの概念について研究してきた。これは、米国における理想的男性像とは対照的なものだ。
文化が違えば、男性の行動や見た目、自己表現の方法についての期待も異なる。
米国の男性はタフで強く、ストイックであることが求められることが多い。重要なのは、女々しすぎると見なされないことだ。一方、デンマークでは、男性が女性的な一面を見せることは許容されるどころか「望ましい」とすらされているという研究結果がある。
筆者は共同研究者と若年層の異性愛者を対象として米国とデンマークにおける男らしさに関する研究をおこなった。そのなかで、デンマークの男性は理想の男性像について、思いやりがあり、愛情深く、思慮があり、共感力があると表現する傾向が米国人男性よりも強いことを発見した。こうした資質は、米国では通常は女性らしいと見なされるものだ。
研究に参加したデンマーク人の多くは、自身の男友達のこうした資質を褒めたたえ、長電話やハグをし合った経験を説明。日常的に「愛している」と言い、メッセージのやり取りでもハートの絵文字を使っているという。
参加者は女々しすぎると思われることをあまり気にしていない様子だった。なぜなら、女らしさを避けることが男らしさの要素だとは考えていなかったためだ。
代わりに、多くの参加者が男らしさを少年らしさと対比させて表現した。つまり、少年でなくなれば男なのだ。
このことから、参加者の男らしさは不安定なものではないことが伺われた。男らしさとは常に補強する必要があるものではなく、単なる心身の発達に関する段階だと捉えていた。
デンマーク人男性の男らしさを調査した別の研究では、参加者は理想的な男性は感情的な面を持っている人物、と答えた。こうした側面はバランスが取れていることと、ありのままの自分でいることの証と捉えられていた。
また、最も好ましい男らしさを示す公人や男性の有名人について尋ねられたところ、研究がおこなわれた当時は皇太子だった新国王のフレデリック10世だと多数が答えた。新国王は軍隊経験がありスポーツをするなどの伝統的な男性的資質と、より柔和な女性的資質を持ち合わせている。思いやりがあり、自身の気持ちを表し、子育てにも熱心で、ベビーカー付き自転車で子供の送り迎えすらする。
この研究の参加者は、良い父親とは単なる稼ぎ手であってはならないとも話した。父親は存在感を示し、思いやりをもって子供と関わるべきなのだという。
https://courrier.jp/cj/353708/