ロシアによる侵攻を受けたウクライナへの欧米による資金支援が滞っている。ウクライナは武器や弾薬が足らず、公務員給与や年金の支払いに充てる資金も枯渇しつつある。支援の停滞が続けば、「法の支配」を守る民主主義陣営の決意の揺らぎとして世界に誤ったシグナルを発することになる。

欧州連合(EU)は1日の臨時首脳会議でウクライナに対する総額500億ユーロ(約8兆円)の支援で合意した。2023年末の首脳会議で合意をめざしたがハンガリーのオルバン首相が反対し実現が遅れた。

EUの意思決定メカニズムは全会一致を原則とする。一部加盟国による機会主義的な利益の追求をゆるす弊害があらわとなっており議論が必要だろう。

米連邦議会では超党派のウクライナ追加支援案が頓挫した。トランプ前大統領の意向がはたらいたとされる。支援とセットで交渉してきた国境警備対策について野党・共和党の強硬派から「不十分」という反発があがった。政治家が一致団結して進めるべきウクライナへの支援が「政争の具」となっていることは残念だ。

支援をめぐる足並みの乱れは、欧米の分断を望むロシアのプーチン大統領の思うつぼとなる。同氏は最近の米国人記者とのインタビューで、米国が武器供与を停止すれば戦いが「数週間で終わる」と述べた。欧米の厭戦(えんせん)気分を利用し、侵攻による利益を手にしたまま強引な停戦で幕引きをはかろうとしている。

ウクライナで力による現状変更の前例をつくれば、中国の軍事力強化や北朝鮮の核ミサイル開発できびしさを増すアジアの抑止力も一段と揺さぶられる。欧州とアジアの安全保障が不可分であることはいくら強調しても足りない。

日本は今月、ウクライナの経済復興支援を目的に会議を開く。軍事的な支援に制約がある日本は無償資金協力や人道支援、避難民の受け入れなどでウクライナを助けていく必要がある。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK0684U0W4A200C2000000/