香港の国家安全条例 人と金の流出招かないか

 香港の中国化が進み、社会の統制が強まることを懸念する。

 反体制的な活動を取り締まる国家安全条例の制定に向けた作業を香港政府が開始した。概要を記した文書を公表し、今月28日まで市民の意見を公募している。

 制定は、憲法に相当する香港基本法で義務づけられているが、市民の反発に配慮する形で事実上、棚上げされてきた。2003年に政府が制定を目指した際には、約50万人が参加する抗議デモに遭い、撤回した経緯がある。

 再び制定に動き出した背景に、国家の安全を最優先する習近平指導部の意向があるのは疑いない。20年に中国が施行した香港国家安全維持法(国安法)によって政府に批判的なメディアや民主派団体が弾圧され、壊滅状態となったことも、好機と判断したのだろう。

 文書によると、処罰の対象となるのは「国家への反逆」や「反乱と扇動」「国家機密の窃取とスパイ活動」などだ。サイバー攻撃を念頭に置いた「破壊活動」や「外国勢力による干渉」も犯罪の類型として盛り込む方針という。

 条例について香港政府は、国安法を補完するもので、日常的な外国人との交流や経済活動には影響が及ばないと強調する。

 だが、文書では国家機密について、科学技術の情報など幅広く定義する方針を示す。また、中国本土の反スパイ法と同様に、当局による恣意(しい)的な運用で摘発されるリスクが高まる可能性もある。

 国際金融センターとして自由で開かれた香港は、世界の人々を引きつけ、富を集めてきた。中国企業も資金調達の場としてきた。

 しかし、国際公約として高度な自治を保障した「1国2制度」は形骸化し、社会の閉塞(へいそく)感が強まっている。市民が外国に移住する動きや外資の撤退が目立つ。条例制定がこうした流れを加速させることは避けられないだろう。


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