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妄想に執着も最後は謝罪 揺れ動いた被告の心理
平成以降最悪の犠牲者を数えた京都アニメーション放火殺人事件。１４３日間に及ぶ長期審理の末、裁判員は極刑を選択した。最大の争点は精神障害による妄想の影響。公判当初の青葉真司被告（４５）はなおその妄想に執着していたが、精神科医の証言や遺族の陳述を聞き、最後は謝罪の言葉も口にした。次第に迷妄から覚めていく被告の心境の揺らぎを、うかがわせる裁判となった。
「妄想が影響していたとはいえ、その程度は大きくない。死刑回避の事情とはなり得ない」
京都地裁の増田啓祐裁判長は先に量刑理由から述べ、後回しにした死刑の主文を、最後に２度繰り返した。青葉被告は微動だにせず、やけどの痕が残る横顔の表情も変わらなかった。裁判長から「主文は以上です。よろしいですね？」と声をかけられると、深く頭を下げ、車いすを押されて法廷を後にした。
「事件当時はこうするしかないと思っていましたが、現在ではやり過ぎたと思っています」
昨年９月５日に開かれた初公判の罪状認否で、被告はこう述べた。３６人もの犠牲者が出たことは、事件翌年に逮捕されるまで知らなかった。死者は１０人に届かない程度を想定していたとし、それが「やり過ぎ」という言葉につながっていた。
だがこの時点では、京アニが被告の自作小説をコンクールで落選させたうえ、内容を「パクった（盗用した）」という事件の動機面について、「妄想（思い込み）」ではなく「事実」との態度を崩していなかった。
同２０日（第８回公判）の被告人質問で犠牲者遺族の代理人から「被害者の立場は考えなかったのか」と問われると、「逆に聞くが、パクられたというときに何か考えたのか」と気色ばみ、さらに「（盗用しておいて）良心の呵責（かしゃく）はなかったのか」と反論した。
また恨みの対象は会社としての京アニと、被告が一方的に恋愛感情を持っていた京アニの女性監督のみで、他の社員については「モブ（群衆）」に近い感覚だった、と言及。小説の審査に関わっていない多数の社員まで巻き込んだことも「知らないというのは努力不足」と連帯責任かのような考えを口にし、被害者感情を逆なでした。
弁護人「もし青葉さんが確信していることに現実ではないことが含まれているとしたら、どう思いますか」
被告「えーっと、見ている現実が違う？ それはないんじゃないかとしか言えない」
しかし、公判中盤からの責任能力に関する審理で、被告の精神鑑定を行った医師２人が、小説の盗用や女性監督との関係などについて「妄想」とそれぞれ証言すると、以降の公判から、被告の供述に変化がみられるようになった。
弁護人「（医師）２人とも『妄想』だと」
被告「（事実という）自信がなくなった」
さらに「後悔が山ほど残る」「恨みがあるとはいえ、あまりに考えが浅い」と苦しそうに言葉を絞り出した。
終盤の公判では、何人もの遺族や負傷者の思いが、法廷での意見陳述や書面の読み上げという形で明らかにされた。
結審直前の昨年１２月６日の第２１回公判。弁護人に「やり過ぎた」という発言について改めて問われた際、「一人一人に努力があり、目標があり、やりたいことがあり、応援していた家族がいて、その全てを握りつぶしてしまったという思いがある」と述べた。
検察官から極刑を望む遺族の心情について聞かれると「その通りに、それで償うべきだと思います」。そして「申し訳ございませんでした」と遺族や被害者に謝罪した。
