>>42

>この数年間における英国知識人のロシア崇拝に、あきらかに貢献している要因が一つある。それは英国自体での生活が平穏無事だったということだ。いくらさまざまの不正があるにせよ、英国は依然として人身保護法の国であり、国民の圧倒的多数は暴力や不法行為など経験したことがないのである。こういう環境で育ったなら、独裁体制の実態など、容易に想像できるものではない。三十年代の支配的作家たちは、ほとんどが因襲の束縛も知らない、おっとりした中産階級の出であり、年齢的にも若くて、第一次大戦の強烈な記憶もなかった。粛清とか秘密警察、即決死刑、裁判抜きの投獄といったものも、あまりにも縁遠く、その怖さはピンとこない。全体主義を抵抗なくうのみにできるのも、まさに、自由主義以外は経験していないからなのである。