RとLが聞き分けられないのは、成長の証

俵 外国語の早期教育なんて、まさにそうですよね。日本語の基礎が身につく前から英語をはじめとした外国語を学ばせようとしている。その風潮には違和感を覚えます。

多くの親は、早くから外国語を学んだ方がいいと思い込んで英語を勉強させる。でも、まずは日本語をしっかり身につけないと話にならないでしょう。私は以前、「RとL聞き分けられぬ耳でよし日本語をまずおまえに贈る」(『オレがマリオ』)という短歌を詠みました。もともと人間は小さいうちはRとLが聞き分けられるけど、日本語はそのふたつを判別する必要がない。だから次第に聞き分け能力が落ちていくんだといいます。そんなことを言われると親としては不安になるけれど、別にそれでもいいわ、と割り切るのも必要です。周囲に合わせて、のべつまくなし英語を学習することには共感しません。

川原 子どもは自分が生きている環境で使われている言葉をまず認識する。そして、その言葉を発声するためには唇や舌をどうやって使えばいいのか、もの凄いスピードで学習しています。それを下手に邪魔するのは得策ではない、と思います。それに日本語を効果的に使うためには、どのような音の違いだったら無視してもいいのかを学ぶことも大事です。

だからRとLが聞き分けられなくなるというのは、成長の証。日本語ではRとLの区別は大事じゃないと理解した、ということですから。将来、英語ネイティブのレベルで喋ってほしいなら、アメリカに移住すればいい。一番危険なのは、なんとなくの気持ちで早い段階から英語を焦って学習させること。そうすると子どもは混乱するんじゃないか。

俵 そういう意味で大変な時代に入ってきたと思います。「これはうちには必要ない。それよりもずっと大事だと思っていることがある」と親が腹を括らないと、ずるずると流されて本意でないものが生活に入り込んできてしまう。

川原 英語の教材を売りたい側も、煽るような宣伝をするからタチが悪いんです。「早くに英語を始めないと、お子さんの能力はどんどん落ちてしまいます」といった言い方をする。ちゃんとした知識がないと親としては不安になりますよね。でも日本で育っている子どもたちは、まず日本語をしっかり身につけることが大事。その上で、大きくなって英語に興味を持ったら勉強すればいいんです。自分で興味を持ったことなら、大きくなってからだってちゃんと身につきます。私もそうだったし、研究者は大抵そうです


「英語コンプレックス」なんて持たなくていい!俵万智さんが語る「RとLを聞き分けられなくていい理由」
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