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折れない人が実践する「嫌な妄想」を絶つ方法
TEDでブレイクした人気セラピストが語る

「話せばラクになる」は間違いだった
日常生活の中で、ある悩みを何度も思い出してしまう、どうしても嫌な思い出がループしてしまう、ということがあります。

困ったことに、こうして頭にこびりつくのは、悪いできごとにかぎられているようです。上司にほめられた経験よりも、みんなの前で怒鳴りつけられたことのほうが、強烈に頭に残るでしょう。

この、ネガティブな思考のループ(心理学用語で「反芻(はんすう)」といいます)は、心身にさまざまな害をもたらすことが知られています。たとえば、気分が落ち込み、気分転換ができなくなる。アルコール依存や摂食障害の危険が増す。考え方がどんどん暗くなり、問題解決能力が低下する。精神的・肉体的なストレス反応が増加し、心臓や血管の病気になりやすくなる、などです。

こういった悩みに対して、一般に心理療法では「話す」ことが治療になると考えられてきました。カウンセリングに行くと、頭から離れないできごとをもう一度、詳細に話すように言われるでしょう。

ところが、最新の研究によって、そのやり方が逆効果になる可能性がわかってきたのです。脳科学の研究によると、私たちは「思い出す」ことによって、記憶を少しずつ書き換えているそうです。悲しい気持ちで思い出した記憶には、それだけ悲しい色がつきます。ですから、心の痛みが癒えない段階で詳細を思い出すというやり方は、できごとの記憶と心の痛みをセットにして脳に書きこんでいるようなものです。このやり方では、忘れたいのにまた思い出さねばならず、思考のループをむしろ強めてしまいます。
これを裏付ける最新の研究結果がいくつもあります。たとえば、抑うつの傾向がある学生を2グループに分け、一方には認知療法のワークブック(自分の気持ちや考えを明確に認識する内容)、もう一方には勉強の課題をやってもらったという実験があります。その直後と4カ月後に気分の状態を測定したところ、思考のループになりやすい人は、認知療法のワークブックをやったときのほうが、抑うつが悪化することがわかりました。

このように、たとえネガティブな考えを修正するためであっても、いやな気分や考え方を思い出させることは危険なのです。

もちろん、誰かに聞いてほしい、気持ちを共有したい、と感じる人は、話すことでうまく気持ちを処理できる可能性があります。しかし、語りたくないのに無理に語るということは逆効果になるということです。自分が話したいのか話したくないのか、心の声を聞くことが大切なのです。

とくに怒りという感情は、思考のループを引き起こす代表的な要因です。どうにも怒りがおさまらず、寝返りを打ちながら腹立たしいできごとを脳内でリピートした経験は誰にでもあるでしょう。思い出すたびに怒りは増幅し、いっそう頭から離れなくなっていきます 。

さらに、それを口に出すことによって人間関係がうまくいかなくなってしまう危険性もあります。先ほど、「語る」ことが逆効果になる可能性もあるといいましたが、さらに語ることが家族や友だちに負担をかけるというデメリットもあるのです。本人は「ひどいよね」と共感してもらいたいのですが、相手にしてみれば、暗く出口のない話を何度も何度も聞かされることは、非常に苦痛に感じられるのです。

「もういい加減にしてくれと友人に言われたけれど、どうして怒られなきゃいけないんですか?」と尋ねた患者もいました。自分が相手の立場になって考えてみればわかることなのですが、これも正常な思考や判断が難しくなっているからでしょう。

思考のループを止める対策2つ
それでは、救急箱を開いて、心の手当の方法を確認しましょう。

手当てには、思考のループを抑える対策と、周囲の人々に負担をかけている場合は、相手の負担を取り除く対策の計4つがあります。

手当てA 視点を変える
手当てB いやな考えから目をそらす
手当てC 怒りをリフレーミングする
手当てD 周囲の人を思いやる
手当てA 視点を変え