スティーブン・キング『キャリー』の原作ってどんなの?全世界3億5000万部超え「ホラーの帝王」の処女長編、実は一度ゴミ箱に捨てられた!?【書評】
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頭の固い親によるスパルタ的指導を常に受けながら、自分の意思をうまく表現したり自由に行動したりできずに抑圧された幼少期を過ごした人も多いかもしれない。特に、「〇〇するな」という禁止令を多く受けすぎると、その後の人生にネガティブな影響を受けるという話もあるようだ。

 本記事で紹介する『キャリー』(スティーブン・キング:著、永井淳:訳/新潮社)の主人公・キャリーという少女もまた、厳格なキリスト教徒だった母親の厳しすぎる禁止令の数々に行動を制限された哀れな被害者だった…。

 本作は、狂信的な母親のもとで育てられ、また学校で日常的に虐めを受けていた少女キャリーが、初潮を機にテレキネシスの能力に目覚め、少しずつ狂気的に変容していきやがて街を破壊する青春オカルトホラーであり、1976年に映画化もされている。
今では全作品で累計3億5000万部以上を誇り、「ホラーの帝王」とも呼ばれるスティーブン・キングであるが、実は『キャリー』は彼の初の長編小説だ。本作は、書いた後にゴミ箱に一回捨てたという話も残っている。そんな彼の処女長編小説をご紹介する。

『キャリー』はよくある「超能力エンタメ」ではない

 最初に断っておくと、この物語はよくある「超能力エンタメ」として、テレキネシスに目覚めたキャリーの能力のすごさを楽しむだけのものではない。もちろんそういう視覚的な楽しみ方もできるのだが、この物語はそれだけにはとどまらない。

 16歳の少女キャリーはテレキネシスで物を浮かせたり、石の雨を降らせたり、その能力で誰かを傷つけたり……と能力を少しずつ解放していく。しかし重要なのは、本作が恐怖小説に青春小説をうまく掛け合わせることに成功していることだ。
母親からの抑圧はもちろんのことだが、アメリカの学生ならではのあけっぴろげで大仰な虐めや、思春期の男女関係のもつれ、いかにしてキャリーを追い詰めていったのか、顛末を丁寧に描いていき、複雑な心理的変化を読む人に推察させていく。