
平和へ向かって走り切る、イスラエル人ランナーの42km ウィメンズマラソン:中日新聞Web
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10日の名古屋ウィメンズマラソンに特別な思いで臨む外国人ランナーがいる。名古屋大で学ぶイスラエル出身のオル・マランツさん(34)=名古屋市千種区=は「私にとってランニングは心の平安。その思いがあれば世界は平和になる」と、昨年に続いてウィメンズのスタートラインに立つ。パレスチナ自治区ガザでイスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が始まって7日で5カ月。平和への思いを胸に42.195キロを駆け抜ける。
本番を1週間後に控えた3日、同市内での練習の合間にマランツさんがぽつりと言った。「今の状況では、家族や自分の知っている地域がいつなくなってもおかしくないと思っている」。9千キロ離れて暮らす両親や故郷を思いやり、表情を曇らせた。
2018年、旅行で初めて日本を訪れた。「人や言語、文化、自然など全てがユニークで魅力的。ここに住んでみたい」と直感し、21年に再来日。名古屋大大学院で研究生として、日本の地方社会や文化を持続するための観光について研究している。
昨秋、イスラエルに一時帰国。家族らと久しぶりに楽しい時間を過ごし、10月7日朝、再び日本に向けて母国を出発した。ハマスが奇襲攻撃を仕掛けたのは、その数時間後。経由地のオーストリアで知人から知らせを受け、頭が真っ白になった。
「飛行機に乗っているうちに、みんながいなくなってしまうのではないか」。日本までの12時間は恐怖に押しつぶされそうになった。連絡が取れた家族からは「状況が落ち着くまでは日本にいて」と言われているが、戦闘は落ち着く気配を見せず、不安は募る。
同国では1948年の独立宣言以降、パレスチナ側との緊張関係が続き、徴兵制度が敷かれる。国民の多くは兵役の廃止を望んでいるといい、マランツさんも「私たちの世代が人種の違いを乗り越え、一緒に暮らせる方法を見つけられれば」と願う。
術はある。「平和は人の内側から現れる。自分や周囲の環境を理解し、他人を思いやれれば、世界はもっと平和になる」。その思いを体現できる舞台がウィメンズマラソン。「多くの人たちと一緒に走ることで、平和への気持ちを共有できれば」と思い描く。
10日は、紛争における人質解放を訴えるメッセージ「BRING THEM HOME NOW(彼らを今すぐ家に連れて帰ろう)」と書かれたTシャツを着用して走る。「もう戦争はやめてほしい」。切実な思いを世界に発信する。
(古畑克真)