「風評加害には社会的責任を」 福島第1原発ルポ漫画「いちえふ」作者の竜田一人さん
https://www.sankei.com/article/20240312-X6OT2AQ47ZH2DK5DZ5IMKVXXWU/


東京電力福島第1原発事故は発生から14年目を迎えた。
未曾有の原発事故は不安や恐怖に加えて、「福島産品は危険だ」「福島は危なくて住めない」といった根拠のない虚説も流布させた。
福島第1原発での作業体験を描いたルポ漫画「いちえふ 福島第一原子力発電所労働記」(講談社)の作者で、
講演やSNS上で放射能のデマ情報に反論する竜田一人(たつた・かずと)さんが産経新聞のインタビューに応じ、
「風評加害を起こしたら社会的な責任を取ることが当たり前だという風潮を作らないといけない」と強調した。



生産者らにある「トラウマ」
──福島第1原発事故による放射能汚染の風評被害はどう克服すべきか

「そうした風評被害を心配しなくてもいい状況になったのではないか。昨年8月に始まった処理水の海洋放出を巡っては風評被害は起きていない。
中国は処理水を『核汚染水』と表現し、日本産水産物の禁輸を続けているが、外交問題であって風評被害によるものではない。
一方、生産者や漁業者には過去に風評被害を受けたトラウマがある。メディアも風評被害は起こるものと認識している部分がある。そこは払拭し、改善すべきだ」

──そのために必要なこととは

「政治的意図を背景にデマを流す『風評加害』の存在を明確に認識し、風評加害を起こしたら責任を取らせるのが当たり前だという風潮を作るべきではないか。
処理水の放出を巡って、『風評加害者』は無力だったといえる。今後、風評加害者がいくら頑張っても無駄で、どんな場合でも風評加害は許されないという認識が浸透していってほしい」

──今後懸念される風評被害とは

「突発的な事故に比べて、処理水の海洋放出のように計画的に実施される作業は実際、風評被害が起きにくい。
地震や津波で発生した震災がれきの広域処理についても『放射能汚染を拡散させる気か』など根拠のない抗議の声が一時的に出たが、
作業が始まれば、そうした声は鳴りを潜めた。2045(令和27)年3月までに福島県外に搬出し最終処分する中間貯蔵施設の除染土などを巡っても、風評被害について心配しなくてもいいだろう」

「チェルノブイリ」の誤解が招いた実害
《福島県は福島第1原発事故当時18歳以下の県民に健康調査を行い、昨年9月時点で328人が甲状腺がん、もしくは疑いと診断されている。
がん診断率が事故前に比べて急増した形となるが、生涯にわたり健康に影響しないがんが含まれていると指摘される。
放射線の専門家で構成し、福島第1原発事故の健康影響を調査した「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」(UNSCEAR)はがん診断の多発を「被曝の結果ではない」と結論付けている》

──福島第1原発事故を巡っては県の甲状腺がん検査に対し専門家らが「過剰診断」と問題視する課題もある

「福島の子供たちが具体的に傷ついているのは甲状腺検査の過剰診断の問題だ。
福島第1原発事故は(1986年に発生し周辺地域で小児甲状腺がんの増加傾向がみられた)チェルノブイリ原発事故と比べて、明らかに内部被曝線量が少ない。
にもかかわらず、福島第1原発事故も甲状腺がんが増加するという思い込みで検査しているのではないか。チェルノブイリの事例を受けた風評や誤解が招いた実害で、広い意味での風評被害といえる」

──小泉純一郎ら元首相5氏が令和4年1月に欧州連合(EU)に福島第1原発事故の影響に関して「多くの子供たちが甲状腺がんに苦しんでいる」と誤った発信をした際は
与野党や福島県が小泉氏らに科学的知見に基づく客観情報発信を求めた

「いろいろな人が抗議して変わるかと思ったが、検査は続いている。甲状腺がんは、手術すれば手術痕を残し、ホルモン剤の服薬が必要となる。
スクリーニング検査(無症状の集団への検査)の改善に切り込まないとどうにもならない。心配しなくてよいにも関わらず、『不安に寄り添え』とばかりに、
結果的に過剰診断が起きる検査が行われている。現代医学の歴史に残るような医療過誤になりかねない」