中国、13兆円投資の「理想都市」閑散 習氏主導も企業や大学の移転進まず
3/13(水) 9:50配信

マンションが立ち並ぶ一角は人けがなく、部屋の窓には「賃貸」の張り紙も見られた=1日、中国河北省の雄安新区

 中国の習近平国家主席が肝いりで主導する新都市「雄安新区」の建設が、北京郊外で進んでいる。有明海に匹敵する広大な田園地帯を、ハイテクを駆使した「理想都市」に変貌させる計画だ。昨年末時点で主要事業に6570億元(約13兆4500億円)の予算が投じられたという。「国家千年の大計」と位置づけられる巨大プロジェクトの進捗(しんちょく)状況を取材に訪れると、意外な光景が広がっていた。 (北京・伊藤完司)

 北京から車で高速道路を2時間ほど走ると、農地の中に突然、高層ビル群が現れた。雄安新区は北京の南西約120キロにある河北省3県にまたがり、総面積約1700万平方メートルに及ぶ。

 まず玄関口の高速鉄道駅「雄安駅」の大きさに驚いた。総建築面積は47万5千平方メートルで駅として「アジア最大」。2020年に運用が始まり、北京や天津とそれぞれ1時間~1時間半で結ぶ。ただ正面玄関は閉鎖され、利用できるのは一部だけ。利用者も少ない。

 新市街地を歩くと、マンションは空室ばかりで1階は全て空き店舗の建物が目につく。開業から間もないアウトレットモールの施設で働く男性は「元の住民はマンションが整備されて戻ってきたが、移住してきた人はあまり見ない」。真新しいビル群は人けもまばらで、不気味な感じすらした。

 一帯は大きな湖がある風光明媚(めいび)な田園地帯だった。17年、先端技術を駆使し、自然と調和した人口200万~250万人規模の「副都」をつくる計画が発表された。首都北京の一極集中を是正し、渋滞や大気汚染の改善を狙う。

 5日開幕の全国人民代表大会(全人代)でも李強首相が政府活動報告で「雄安新区で代表的なプロジェクトの着地にしっかり取り組む」と表明。習氏が繰り返し現地視察するなど、思い入れの強さがうかがえる。

 かつての最高指導者、鄧小平氏は1980年、広東省の小さな漁村だった深圳を中国初の経済特区に指定し、巨大都市に育て上げた。関係者は習氏も雄安新区建設で「レガシー(政治的遺産)」を残そうとしているとみる。

 地元メディアによると、2023年時点で雄安新区には86の企業などが新規進出しているが、国内の大手IT企業や先端産業、研究機関が中心。進出企業を限定している点が改革・開放路線の下、起業家や海外からの投資を引きつけて発展した深圳と大きく異なる。地価高騰を防ぐため、不動産取引にも制限がある。

 人口は17年の約104万人と比べ、22年時点でも130万人程度と伸び悩む。教育・研究機関の集積を目指すが、移転を公表したのは5大学にとどまる。「交通の便が悪く、優遇策なども少ない。移転する企業は多くないのでは」と日本の企業関係者。

 中国では深刻な不況が続き、政府が号令をかけても企業や消費者の反応は鈍く、景気低迷の出口が見えない。35年の完成予定までには時間があるが、雄安新区の現状は笛吹けども踊らない中国経済の今を映し出しているように見えた。

https://news.yahoo.co.jp/articles/8b56d5cdfed3f41a4785dcae5a7a61f08d6edd5d