習近平氏の〝原点〟巡礼に党関係者数千人 中国「個人崇拝」うやむや復活
3/13(水) 11:40配信

西日本新聞
習近平国家主席が生活した横穴式住居。習氏は左から2番目の場所で寝起きしていたという=2月28日、中国・延安の梁家河村
 11日に閉幕した中国の全国人民代表大会(全人代=国会)は、習近平国家主席への権力のさらなる集中ぶりを浮き彫りにした。国家主席として異例の3期目に入っている習氏の明確な後継者は見当たらず、「終身制」に向かっているとの見方もある。習指導部は国民に習氏の思想を学習させる活動を徹底しており、「個人崇拝」の風潮も強まっている。

▶習近平国家主席が導入したとされるメタンガスのタンク

 中国陝西省延安の中心部から車で約1時間半。当時15歳の習氏が文化大革命期の1969年に「下放」された梁家河村は乾燥した黄土高原の谷間にある。「下放」は都会の青年を農村に送り込む政策で、習氏は横穴式住居「窰洞(ヤオトン)」に住み、畑を耕し、ふんを拾い集めたという。農作業はつらく、食料も足りず、寝床のノミに悩まされた。

 習氏は梁家河村で過ごした7年間を振り返り、「人生の第一歩で学んだことはすべて梁家河にある」と語っている。「原点」とも言える地は習氏の国家主席就任後、観光地として整備された。習氏が暮らした三つの窰洞は再現され、習氏が掘ったとされる井戸や習氏が導入したメタンガスのタンクも見ることができる。

 2月末に現地を訪ねると、村の入り口にある施設でパスポートと記者証を確認された。間もなく村の観光担当職員を名乗る男性ら2人が駆け付け、「案内しましょう」と申し出た。誰でも案内をするのかと尋ねると、「メディアが来た時だけだ」と答えた。

 資料館には村の歴史、習氏が村で暮らした頃の写真や資料が展示されていた。村に点在する展示施設を歩いて回ったが、つじごとに制服姿の警察官らが立ち、スマートフォンで記者を動画撮影していた。私服姿の男性は無言で記者の後ろをずっと付いてきた。習氏の足跡を伝える施設だけに不測の事態は避けたいという緊張感が伝わってきた。

 村の職員は「多い時期には1日に数千人の観光客が来る。公務員や国営企業など体制内の人が多い」と説明した。地元のタクシー運転手も「この数年は観光客が多い」と話していた。中国メディアは習氏が梁家河村での体験を語る記事を折に触れて配信しており、共産党の歴史を学ぶ「紅色観光」の「聖地」の一つとなっている。

 習氏は2018年に国家主席の任期を撤廃して長期政権に道を開き、建国の指導者毛沢東氏、改革・開放政策を推進した鄧小平氏と並ぶ権威を手に入れた。習指導部が習氏の経験や思想を徹底して国民に学習させる姿は、文化大革命の反省から禁止された個人崇拝そのもののように思える。

 今回の全人代は閉幕後の恒例だった李強首相の記者会見がなくなり、国家主席に次ぐ立場の首相でさえ影が薄くなった。権限を一手に握る習氏は、長引く不況や少子高齢化など山積する問題で難しい選択を迫られる場面が増えそうだ。日本の外交関係者は「習氏の周囲は側近で固められ、不都合な情報がどこまで習氏の耳に届いているのか疑問だ」と、今後の政権運営への不安を口にした。 (延安で伊藤完司)

https://news.yahoo.co.jp/articles/76e8460f166a9442acc877f05ad5cec104701cd3