中国全人代で突き付けられた「戦略的軽視」。なぜ日本は取り残されるのか

●王毅外相の記者会見で史上初めて日本メディアに質問機会無し
●全人代中に発表されたビザ免除対象国にまたしても含まれず
●日本はなぜ取り残されるのか

王毅外相の記者会見で史上初めて日本メディアに質問機会無し

 ここからは、「全人代と日本」という枠組みで見ていきたいと思います。中国で1年に1回の最重要政治会議である全人代ですが、日本に特化した審議はありません。「政府活動報告」の中にも、「日本」の二文字は出て来ません。中国共産党として、国をどう繁栄させるのか、安定を保つのか、その上で対外関係をどのような理念でどう構築していくのか、といったビックピクチャー(大きな絵)、ストラテジー(戦略)を審議するのが全人代です。

 一方、今回の全人代で、習近平氏率いる中国共産党指導部の「対日スタンス」が垣間見える場面が二つありました。今後、日本の政府や企業が中国とどう付き合うかを再考する上で重要な示唆を内包していると考えるため、本稿で取り上げ、検証してみたいと思います。

 まず一つ目が、全人代で外相が外交問題に特化した記者会見を行うのが慣例化した2004年以降、初めて日本メディアの記者に質問の権利が与えられなかった点です。例年であれば、日本メディアから1社、日中関係に関する質問をするのが慣例でしたが、今回、王毅(ワン・イー)外相が受け付けた21の質問に、日本の記者も日中関係も含まれていませんでした。

 参考までに、アジア地域のメディアで言うと、シンガポール聯合早報の記者が台湾問題、韓国KBSテレビの記者が朝鮮半島、パキスタンAP通信の記者が「一帯一路」、インドネシアアンタラ通信社の記者が南シナ海問題について質問していました。他地域では、米国、ロシア、キューバ、スペイン、エジプト、タンザニアの記者に質問の機会が与えられました。

 記者会見とはいえ、中国外交部の報道局が、事前にどのメディアに質問の機会を与えるか、その上でどんな質問をさせるかに関して綿密な準備と打ち合わせをするのが慣例です。中国外交部はその後の記者会見で、日本メディアに質問の機会を与えなかったのは「時間の関係」と釈明していましたが、そんなことはありません。最初から与える気はなく、意図的に日本メディアを外したとみて間違いありません。

全人代中に発表されたビザ免除対象国にまたしても含まれず

 二つ目に、全人代の期間中、中国政府は、スイス、アイルランド、ハンガリー、オーストリア、ベルギー、ルクセンブルクの国民に対し、半年間、試験的に(3月14日から11月30日まで)15日以内のビザ免除措置を取ると発表しました。

 コロナ禍前、日本は、シンガポール、ブルネイ同様、15日以内の中国渡航に際するビザ免除が認められていました。コロナが明けた昨年9月、中国政府はシンガポールとブルネイ国民に対しビザ免除措置を復活させました(その後、今年2月9日、すなわち中国の春節直前から、中国とシンガポールは30日以内のビザ相互免除を施行)。

 昨年11月、中国政府はビザ免除対象国を拡大させ、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、スペイン、マレーシアの6カ国の国民を対象に、1年間(2023年12月1日から2024年11月30日まで)、中国への短期渡航ビザ免除措置を発表しました。

 昨年来、ポストコロナ時代における日中経済関係、ビジネス交流の促進という観点から、岸田文雄首相を含めた日本政府、および経団連など経済団体も、官民一体となって中国側にビザ免除再開を求めてきたにもかかわらず、現在に至るまで前向きな対応はなされていません。

 問題は、上記で明らかなように、日本だけが取り残されていることです。米国や韓国、豪州や英国も含まれていないではないかという指摘もあるかもしれませんが、これらの国はコロナ禍前にもビザ免除措置を享受していませんでした。

 日本はそれを享受していた3カ国の中で、唯一免除措置が再開されていない国であり、さらに、コロナ禍前にビザ免除されていなかった国、それもドイツ、フランス、イタリアといった西側先進国に対しても続々と免除措置が発表されているわけですから、「日本だけが取り残されている」という突っ込んだ指摘も、あながち大げさとは言えないでしょう。

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