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「葬儀」を行うゾウたち…死んだ子ゾウを丁寧に埋葬

インド・ベンガル地域でアジアゾウの新たな葬儀文化を発見 埋葬後、鼻で40分間大声を上げる…死後は墓を避けて移動

アジアゾウが死んだ幼いゾウを地中に埋葬した事例が、インド北部のベンガル地域で初めて発見された。過去には、アフリカゾウが草や木の枝、土などを死んだ仲間の上に載せたり、“弔問”をするかのように死んだ個体を訪れる姿が報告されたことがある。

 インド山林庁の西ベンガルワシ保存センターのパルビーン・カスワン・センター長と、プネーのインド科学教育研究所のアカシュデープ・ロイ研究員は、インド北部のベンガル地域の森や茶の栽培地、農耕地、川岸など様々な地域で、アジアゾウが子どもを埋めた跡を発見したと最近、「絶滅危機分類群ジャーナル」で報告した。

 アジアゾウは、国際自然保護連合(IUCN)の絶滅危惧種レッドリストに掲載された絶滅危惧種で、インドには全世界のアジアゾウの個体数の60%以上が棲息している。特に調査が進められたベンガル北部には500頭以上のアジアゾウが暮らしている。

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すべての幼いゾウが背中を地面につけた状態で埋葬

 研究チームは「アフリカゾウの埋葬はたびたび報告されていたが、アジアではこれまで観察されたことはなかった。今回の研究で私たちは、アジアゾウが茶の栽培地の排水路に幼い子どもを埋めた事例を5件新たに発見した」と明らかにした。さらに「ゾウは自分たちだけの独特の方式で死体を埋葬し、移動する際には埋葬場所を避けるなどの事後の行動を示した」と付け加えた。

 研究チームが5カ所の埋葬地を観察した結果、死亡したゾウはすべて背中が地面についた状態で埋葬されていた。足と脚は土の外に突き出ていたが、頭や胴などは完全に土に埋もれていた。埋蔵された死体の背中の表面からは打撲傷と病変が発見されたが、研究チームは、その傷はゾウが死体を他の場所から埋葬地まで引っ張ってきて生じたものだと推測した。

 埋葬地近隣の排泄物や足跡などを分析した結果、埋葬地には様々な年齢帯のゾウが参加したことが分かった。また、ゾウが埋葬を終えた後、30〜40分間、鼻で大声を出す姿が観察された。

 埋葬地の位置は多様だった。近くにある住民たちの居住地から150〜350メートル程度離れていたが、保護林から4キロメートルほど離れた場所もあった。ゾウは子どもを主に茶の栽培地の排水路に埋めたが、研究チームは、そこが他の場所よりも埋葬が容易だったとみている。

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墓を再訪することだけが哀悼ではない

 アジアゾウだけの独特の事後の行動も報告された。先行する他の研究でアフリカゾウは、死体を草や木の枝で覆い、再度その場所に戻る様子が観察されたが、アジアゾウは一般的に埋葬地をふたたび訪れることはなく、むしろその場所を避けて他の経路を通ることを好んだ。研究チームは埋葬地から死体を発掘し、年齢や死因などを調査した。5頭のゾウは2022〜2023年に死亡した個体で、年齢は生後3カ月から12カ月まで多様だった。ゾウの死因は人間の影響でなく栄養失調や感染などだった。

 これまでに死んだ仲間に対する哀悼や埋葬の行動が観察された動物は、霊長類、クジラ類、ゾウなどだ。いずれも認知能力が優れ、複雑な社会生活を営む動物たちだ。特にアフリカゾウは、死体に注ぐ関心が特別で、群れのなかで誰かが死亡すると、夜中にそばに寄り添ったり、遠くから“弔問”を来る行動をみせる。2020年にケニアのサンブル自然保護区域では、55歳の母ゾウが死亡すると、末娘の10歳のゾウが長期間死んだ母親のそばから離れることができず、涙を流す姿が観察された。

 今回の研究には参加しなかった米国オクラホマシティ動物園のチェース・ラデュ博士は「ゾウの埋葬文化は、彼らの複雑な社会性を示している。ゾウが死んだ親戚に向けて独特の哀悼を示すことは過去にも観察されたことがあるが、今回の研究のように、ゾウの子どもを埋葬地に移動させて体系的かつ意図的に埋葬した事例は、これが初めて」だと科学ジャーナル「ニュー・サイエンティスト」に述べた。